辻橋はその場から逃げ出した。愛梨さんはポケットから携帯を取り出し、着信履歴の一番上の人に「刺されたから助けて……」と電話をかけた。
それから近くのコンビニまでたどり着き、店員に携帯を渡して助けを求めた。店員はすぐに110番通報した。
あと1時間遅れていたら…
愛梨さんは病院に救急搬送されたが、胸の骨を貫通するほどのケガを負っており、単に突き刺したレベルをはるかに超えた力がかかっていた。
血圧は60まで下がり、出血が激しく、全身の血を入れ替えるほどの輸血をして一命を取り留めた。搬送が1時間遅れていたら死亡していたところだった。
一方、辻橋は自分で「元カノを刺した」と110番通報していたため、駆け付けた警察官に殺人未遂容疑で逮捕された。
車の中からは指輪や婚姻届とともに大量のアダルトグッズが見つかった。スマホに書き込まれた記録から愛梨さんを監禁レイプして、結婚に応じなければ殺してしまうという犯行計画も発覚した。
それなのに辻橋は公判で記憶喪失を主張した。
「別れてからご飯が食べられなくなり、嘔吐を繰り返し、泣きじゃくる生活が続いた。失恋のショックで情緒不安定になり、記憶がなくなる状態に追い込まれた。
事件当時のことは何も覚えていない。不満を募らせていたわけでもない。よりを戻したくて、カッとなってしまったが、殺すつもりはなかった」
母親の愛情に飢えていた
愛梨さんは証人として出廷し、次のように述べた。
「反省文で謝られても、事件の記憶がないと言っているのだから、何に対して謝っているのか分からない。付き合っているときもイライラすると刃物を見せられ、『オレは警察なんか怖くない』と言っていた。
今からお礼参りが怖いです。『お前が逃げたら、家族に危害を加える』とさんざん言われていました」
