「これはマズいな」
だが最初の目撃情報から約12時間後の6日18時32分。長岡公園から南東に約250メートルの住宅地(富士見が丘1丁目)で犬の散歩を終えた女性が、自宅の玄関前で物音がするのに気付く。隣人かと思い目をやると、わずか10メートル先にクマがいたという(「下野新聞」2026年6月11日付)。
その3時間後には、さらに南へ約2キロ下った上大曽町にある中央消防署付近でも目撃された。消防署付近の防犯カメラには、はっきりとクマが映っており、ここに至って丸山も、クマが市中深くに入り込んだことを認めざるを得なかった。
「(生息地である北部の)山の方に帰ってくれればいいと思っていたんですが……。目撃地点を辿ると、市中心部へ向かって南に下っていたので、これはマズいな、と」(丸山)
丸山の懸念は当たる。日付が変わって7日1時14分には栃木県庁に隣接する県立図書館付近で目撃。
そして同2時20分ごろ、オリオン通りに現れたのである。
オリオン通りを疾走したクマはさらに南下。同5時8分に明保野公園で、同15分には宇都宮高校の南で、同30分には姿川中学校の北側100メートルで目撃されている。
宇都宮市では、7日午前7時に危険鳥獣対策本部を設置。丸山も県庁から職員を派遣し、情報共有とバックアップの態勢を整えた。
クマが中学校や高校に接近したことは、市に別の難しい判断を迫った。
翌日は月曜日である。市内94の小中学校を一斉休校とするのか、それとも出没エリア周辺だけにとどめるのか。その協議のため、7日日曜日の午前中から、佐藤栄一市長、副市長、教育長らは市長室に集まっていた。
判断の期限は午後6時とされた。
「開けられる学校は、できれば開けたいというのが本音でした」
当時の苦しい胸のうちを吐露するのは、宇都宮市教育委員会学校健康科の江原哲課長だ。実は宇都宮市では6月3日にも台風6号の影響で一斉休校を余儀なくされていた。
「休校が続くとどうしても授業時数の確保が難しくなってしまいます。場合によっては夏休みの日数が減るという懸念もありました」(同前)
そればかりではない。
「共働きのご家庭ですと、学校が休校してしまうと、日中、お子さんの見守りを出来る人がいないというケースも考えられました」(同前)
そこで日曜のうちに学童施設の運営事業者に連絡し、もし月曜が一斉休校となった場合は、通常は放課後からの開放時間を朝7時半からに早めることで調整した。
※本記事の全文(約7500字)は、月刊「文藝春秋」8月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(伊藤秀倫「ドキュメント熊襲来――宇都宮で何が」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・中学校の校庭に現れた
・クマと目が合った瞬間
・この事件は「入口」に過ぎない

