――上原さんは、どうしてベンチプレスを選ぼうと?

上原 ベンチプレスをするのに適したフォームだったんです。ベンチプレスは、体格によって有利・不利が出やすい競技で、腕が長くなく、胸郭が厚く、(ブリッジしたときの)背中のアーチが高い選手が物理的に有利――バーベルを押し上げる距離が短縮されるため、より効率的に高重量を扱えるんですね。私はブリッジを含め、ベンチプレスをする上でのフォームが良かったみたいで、コーチが「ベンチプレスで育てよう」と提案してくれた。

渡辺コーチとのツーショット 本人提供
ベンチプレスに誘ってくれた、みゆきさんとのツーショット 本人提供

 翌年2022年2月に全日本選手権がたまたま茨城県つくば市で開催されるということもあって、何を思ったのかコーチとみゆきさんが、「麻衣ちゃんを全日本に出そうぜ」って。

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わずか半年で全日本選手権に出場するも、結果は6人中の6位

――始めてから半年後には、全日本選手権に出場させるという計画が一人歩きしたと(笑)。

上原 私も、「何を言ってんだ、この人たちは」って(笑)。でも、目標を設けると、おのずとやる気も高まるもので、私もその気になってしまった。とは言え、全日本選手権に出るためには標準記録をクリアしなければならず、それが65kgだった。12月に行われる地方大会でその記録をクリアしようと言われたんですけど、2か月半しかない。さすがに無理だろうと思ったんですけど、そこでコーチが提案してきたのがベンチシャツでした。

上原さんが着用しているベンチシャツと、世界ベンチプレス選⼿権⼤会の金メダル

――初めて間近で見ましたけど、まるで拘束具のようなフォルムをしていますね……。

上原 競技専用のサポートギアなのですが、とても硬い特殊素材で作られています。腕を前に固定するような反発力を生み出すことができるので、ノーギア(素肌)の記録を大きく上回る重量を挙げることが可能になるんですよ。

 そのため種目もノーギアとフルギアで分かれ、私は「ベンチプレスのフルギア」種目を伸ばそうということになりました。ベンチプレスの全日本選手権、世界大会はいろいろあるのですが、私が目指したのは「エクイップ部門」のマスターズ1(40代の部)57kg級というカテゴリーの全日本選手権。

 当時、私はノーギアだとベンチプレスで20kgしか挙げられなかったのですが、ベンチシャツを着ると本当に60kg近くまで挙げられた。私自身、高重量を挙げられる方が楽しかったから、使えるものは使おうと。ただし、ベンチシャツは扱いが難しいため、ノーギアを好む人もいます。実際、一人では着られないし、脱ぐこともできないほど、ガチガチに固められる(笑)。

――12月の地方大会は、65kgを超えることができたのですか?

上原 60kgだったのですが、推薦枠があるということで、2月の全日本選手権に出場できることになりました。全日本選手権に出たはいいものの、結果は6人中の6位。それでさらに火が付いたというか。やっぱりとても悔しかった。