目まぐるしく変わる状況に、「危ない」と言い切る余裕はなかった。飯塚はわずか約七〇メートルの間に、あわせて三度の車線変更を行った。時刻は〇時二三分二九秒。最初の車線変更から三秒間の出来事だった。

最初の事故

 事故後、バイクを運転していた野口昌也が現場を訪れ、当時の状況を証言した。五四歳の野口は「葛飾セーフティーツーリング」に所属しており、警視庁の安全講習に長年参加して、普段から安全運転を心掛けている。

 野口は歌手の浜田麻里の長年のファンだ。彼女の三五周年ライブに参加するため、千代田区北の丸公園にある日本武道館に向かう途中だった。

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 開演は午後六時三〇分だったが、会場近くに駐車場がなく、グッズの販売開始時刻に間に合うように行こうと、当日はかなり早く家を出ていた。飯塚の車と野口のバイクの距離はわずか一メートルに感じられるほど迫っていたという。

「頭の中が真っ白になりました。あおり運転だと思い、そのまま停車させられるかと全身に緊張感が走りました」

 野口は急いでバイクを停め、視界の中で小さくなる暴走車の行方を呆然としながら凝視した。

 飯塚の車は金切り音を上げ、一気に左に横滑りして歩道に突っ込んでいった。飯塚は「ガードパイプ(歩道用防護柵)に擦ってもいいから車を止めよう」という決死の覚悟だった。

 事態が飲み込めていない妻が初めて恐怖を漏らした。

「あぶないっ」

 ところが――。ガンガンと音を立て、歩道側の縁石に接触したのだ。