飯塚が「わっ」という悲鳴を上げる。大きな衝撃音とともに、助手席側の前輪のホイールキャップが吹っ飛んだ。地下鉄有楽町線の東池袋駅の二番出口付近の縁石に、タイヤが接触した痕が残った。
これが、池袋暴走事故における最初の事故となった。
「警察から追われているのではないか」
縁石のそばでは、ホンダ車の販売店が営業中だった。五〇代の男性スタッフは二階の休憩室でランチを食べていると、タイヤが空転するような“キュルキュル〞という音が聞こえ、外を見ると車が猛スピードで走っていった。あまりの迫力に時速一〇〇キロメートルは出ていると錯覚した。
二〇代の女性スタッフは、一階で客に出した飲み物を片付けている最中に暴走を目撃した。他の車を追い抜こうとしているように見えた。二人とも「警察から追われているのではないか」と感じ、車が視界から消えたのち大きな音が聞こえた。それが縁石との接触音だった。
この縁石と同じ通りにあった包装専門店の女性店員も、大きな音を聞いて店の外に飛び出した。対面の首都高速の高架下にあるカフェの女性客も、その様子を呆気にとられて眺めていた。時刻は暴走から五秒目の〇時二三分三一秒。
車は時速七〇キロメートル近くに達していたが、縁石との接触をきっかけに轟音は一旦収まる。この時の状況を説明した飯塚の事故後の供述が、後に大きな争点になる。
「アクセルの状態を確認するため運転しながら足元を見たところ、右足を離しているにもかかわらず、アクセルが張り付いていました。見たのは一瞬で、右足を上げないとアクセルが隠れてしまい見ることができなかったので、右足を上げて確認しました。見た姿勢は、頭の位置も変えずに目線だけ足元に向けて確認しました」
そして、飯塚の車は再度加速する。飯塚はパニックになり、自分の足をどのペダルに置いているのか感覚を失う。