自転車はサドルの上部分が吹っ飛んだ。後ろから一部始終を目撃した野口昌也のジャンパー下の肌に、じわりと汗が滲んだ。

 通行人が撮影した映像には、野口がバイクに乗ったまま、石川のもとにかけつける様子が写っていた。東池袋交差点で取り締まりをしていた白バイもサイレンを鳴らしながらかけつけた。警視庁は発生と同時に事故を認知した。

「死んでる?」「意識は?」

 通行人から「死んでる?」「意識は?」という声が上がる。石川の救護にあたった複数人のうち一人の男性が「橈骨(肘から手首までの前腕にある二本の骨のうち親指側にある骨)に反応あり。意識もあります」と話した。野口は「この人は医療関係の知識があるかもしれない」と考えて、救護は彼らに任せ、自分はバイクのハザードランプをつけて車両規制を行った。

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 石川のもとに、また別の三〇代の女性が駆け寄った。看護師の資格を持ったこの女性は池袋から自宅に徒歩で戻る途中でたまたま事故に遭遇した。石川の顔からは鼻血が大量に出ていた。

 そして、リュックサックの紐が肩に食い込んで苦しそうだった。女性は近くの店舗に行き、はさみを借りた。会話ができず、起き上がろうとする石川に、「動かないでください。リュックの紐を切りますよ」と声をかけ、刃を入れた。

 このときの様子を、石川が事故後に証言した。石川は七八歳という実年齢よりも若々しく、趣味も若者的だった。乗っていた自転車はジャイアント社製で二四段の変速ギアがついているクロスバイク。

「私は自転車が好きなもんで、乗っていたやつもいい値段がしたんですよ」