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皇太子同妃両殿下のご婚儀のリハーサルで

 私が掌典補としてお仕えしたのは、昭和48年(1973年)から平成13年(2001年)までの28年間のこと。最も忘れがたい経験と言えば、昭和天皇の御大喪と今上陛下の御大礼です(「知られざる『掌典職』の世界 儀礼担当者が語る『平成の大礼』の舞台裏」)。また、平成5年(1993年)の皇太子同妃両殿下のご婚儀に際して、数日前に行われた習礼(しゅらい)、すなわちリハーサルの時に、皇太子妃殿下の先導をさせていただきました。お車で賢所へお着きになった皇太子妃殿下は大変緊張されたご様子だったのですが、私から「おめでとうございます」と申し上げたところ、「ありがとうございます」とおっしゃいました。まだその時は、小和田雅子さんという民間の方ですから、「ありがとう」とはおっしゃらなかった。その時にニコッと微笑まれた笑顔を拝見して、実にチャーミングな方だということが伝わってきました。習礼が終わりお車へ戻られる頃には、ほっと安堵したご表情をなさっていましたね。

1993年6月9日、結婚の儀 宮内庁提供

賢所の一日 朝5時から夜9時まで

 平時の場合、掌典補は6日に1回が当直の日に当たり、朝は5時45分に起きます。御殿を開けてお掃除をして、それから神様のお食事(神饌)を用意してお供えすると、8時30分には、御上(天皇陛下)の代わりに当直の侍従さんが毎朝御代拝に参られます。その後、神様のお食事をお下げして片付けをして、事務仕事に戻ります。そして夕方に御殿の扉を閉めて、21時30分頃には夜の御用を終えるという日々でした。毎日の御用のほかに、年間60回ほどの御祭(宮中祭祀)などがあります。賢所は厳かで尊い場所ですが、お客様の来訪などもあり、一般の人が想像されるよりはにぎやかなところだと思います。

皇居前広場 ©文藝春秋

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 私にとって幸せであったのは、内掌典さんのすぐ横でご奉仕をさせていただいて、尊敬できる方がたくさんおられたことです。私がお仕えしていた当時は、未婚の女性が4~5人おつとめされていました。短大や大学を卒業してまだ間もないような20代前半の方であっても、自分には決してできないことをやっておられる。そういった意味で、みなさんを尊敬できました。内掌典は心身共に清浄であるため、神事を第一として実に大変なことをされているんだな、と。