中学校への「1番目のお願い」と「2番目のお願い」
妻が何度か中学校と電話連絡を取り合い、光がどういう学校生活を送るかという相談を進めた。私は仕事が終わって帰宅する都度、妻から話を聞き、自分の頭の中を整理し、妻とも話し合いをした。そして最終結論として学校に長文の手紙を書いた。
私は学校に謝意を述べたあとに、お願いを綴った。1番目のお願いとして、光を男として扱ってもらうこと。制服は詰襟・学ランを着用すること。トイレは職員トイレか使用頻度の少ない離れた場所を使わせてもらうこと。更衣は保健室。学籍番号は男子の中に含めること。体育の授業は男子と一緒に行うこと。名前を呼ぶときは「さん」付けではなく、「君」付けでお願いしたいこと。修学旅行は事前に相談させてほしいこと。
だが、このお願いは学校にとってハードルが高いと私は考えた。そこで1番目のお願いがムリの場合として次善の希望を書いた。2番目のお願いだ。
光を男児と女児の中間として扱ってもらいたい。学籍番号は男子と女子の間に。制服は女子制服だけどスカートではなくスラックスで。トイレ・更衣・体育は1番目のお願いと同じ。身体検査は一人だけ別室で水泳の授業はレポート提出に代えさせてほしいと。
つまり、次善のお願いというのは、光の性別違和を徐々にクラスメートに認識してもらい、しかるべきタイミングでカミングアウトするというものだ。言ってみれば小学校で光が級友から受け入れられた過程を中学校でも再現したいと考えたのであった。
1番目のお願いと2番目のお願いの二つを書き、親としては2番目のお願いの方が現実的なので、2番目のお願いを採用してほしいと書いた。
だが、今から考えるとこれはまったく論旨不明のお願いで、私の心の中には、光が学ランを着て男になってしまうことへの戸惑いとか否定的な気持ちがあったのかもしれない。
光は、自分を男と言うが、そんなに荒々しいとか猛々しい雰囲気は持っていなかった。確かにショートヘアで、スカートは穿かないし、男子とばかり遊んでいるのは事実だが、言ってみれば可愛らしい子である。光の容姿を見て、男だと思う人はいないはずだ。性自認が男というだけで、見た目はボブカットの女の子である。それがいきなり学ランを着るということに私の思考はついていっていなかったのである。
中学校への手紙には2番目のお願いを採用してほしいと書いたが、妻は最初から1番目のお願いの方がいいと割り切っていたとあとになって知った。妻は私の中途半端な要望に半ば呆れつつ、私の気持ちを汲んで2番目のお願いを要望することに同意してくれたのだろう。