「解散」の号令を半ばうわの空で聞きながら
そのあとすぐ解散になったが、兵隊たちはいつまでも甲板に残っていた。気がぬけたようにぼんやり沖のほうを眺めている者、腕をくんだままじっと考えこんでいる者、大声で重臣や政府の弱腰をなじっている者、中には甲板にしゃがみこんで両手で頭をかかえるようにして泣いている者もあった。
おれは副直将校の「解散」の号令を半ばうわの空で聞きながら、油の黒くしみついた右舷のサイドを後部のほうに歩いていった。急に体の重心を失ってしまったようで、まわりのものが小きざみに震えてみえた。じき夕食の時間だったが、デッキへ降りていく気にもなれなかった。おれはなにか熱くきりきりと胸をしめつけてくるものを抑えながら、自分の戦闘配置になっている三番砲塔の中に入っていった。独りになりたかったのだ。
「一体どうしたらいいんだ」受け入れられない敗戦
砲塔の入り口の扉をしめ、ぼんやりと塔内を見まわした。天井に交錯している電纜、砲尾の発火装置、信管をつけたままの予備砲弾、要具筐の上にのっている口のまがった油差し、壁にさがっている防毒具とズックの火管帯……。なにもかも一時間前、ここを出たときのままだったが、眼に入るすべてのものが意味をなくしてしまったように何かうつろでよそよそしい。そのくせいっときもじっとしてはいられなかった。
おれは、やにわに足もとの油差しを蹴とばし、火管帯を一度ふりまわしておいて力いっぱい床に叩きつけた。と、突然、堰を切ったように熱いものが胸にふき上げてきた。
畜生、敗けた、敗けたんだ……。おれはのどの奥で呻きながら頭を正面の発射表示器に押しつけた。あ、どうしたらいいんだ。一体どうしたらいいんだ。濡れた瞼の裏側を打ちのめされた黒いむかでがよたよたと這っていく……。
もう何もわからなかった。口惜しいのか、悲しいのか、それもわからなかった。おれはただ狂ったように、同じことをきれぎれに呻きながら、汗と涙でくちゃくちゃになった顔と頭を表示器の盤面にごんごんと突きあてていった……。


