すべてのものは昨日のまま
たしかに味方の敗色は覆うべくもなかったが、そのうちに決定的な勝機をつかんで、戦局をいっきょに挽回できるのではないか。有史以来一度も外敵にあなどられたことのない日本だ。最後には必ずや勝つだろうとひそかに信じていた。だがそれも今にして思えば敗北の恐怖から逃れるための苦しまぎれの硬直したあがきにすぎなかった。
八月十五日をさかいにおれはまるでやる気をなくしてしまった。もう何もかもどうでもよくなって、急に投げやりになり、体を動かすのさえ億劫だった。それまでは艦内では真面目な勤務ぶりをかわれていたが、翌日からは分隊の作業にも出なかったし、当直にも立たなかった。
当座は甲板の日陰に坐ってぼんやり空ばかり眺めていた。羽虫になって吹き散ってしまいそうな自分の心を辛うじてささえとめながら……。しかし、そういうおれを取り巻くすべてのものはやはり昨日のままだった。国が敗れたというからには、空は裂け、山は崩れ、海は荒れ狂うような、なにか驚天動地の一大異変があっていいはずなのに、何もかもがあっけらかんとして、いつものようにそこに在り、いつものように動いている。昨日のありようはそのまますんなりと今日につながっている。そこにはこれというなんの異変もみられない。それがおれには不思議でならなかった――。
復員したのはそれから二週間後だった。艦長以下、残務整理員三十二名を残し、あとは全員が艦を去って、それぞれの娑婆に散っていった。そして、四年半にわたる、おれの海軍生活もその日をさかいに終わったのである。



