「からだの環境」とは、がん細胞そのものではなく、がんを取り巻く宿主側の生体環境を指している。具体的には、栄養・代謝状態、炎症の程度、免疫機能、自律神経のバランス(睡眠やストレスの状況、身体活動)、そして、エントロピーといった多くの要素が相互に影響し合って形成される。ここでいうエントロピーとは、体内の「乱れ」や「無秩序さ」を表す概念であり、腸内環境の悪化や老廃物・環境負荷の蓄積などを含む、体内環境全体の負荷の総体を示している。私は宿主側の生体環境のことを患者さんに説明する際、「治療の基盤となる土台」と表現している。前章で説明したようながんの代謝的性質に反する状態と十分な免疫機能を発揮できる状態がからだの環境としては理想である。
同じ治療を受けても結果に差が生じる背景には、この土台の状態が少なからず関与している。からだの環境が乱れていると、慢性炎症の亢進や代謝ストレス、免疫反応の低下などが生じやすく、結果として治療の反応性や回復力に影響する。腫瘍微小環境のpHがわずかに違うだけで治療の反応性が大きく異なることも前章で説明した。重要なのは、からだの環境を整えることを標準治療と並行して取り組むことである。
寛解した人たちに「共通していた要素」とは
劇的寛解という言葉がある〈1〉。
1.和田洋巳『がん劇的寛解 アルカリ化食でがんを抑える』KADOKAWA、2022年3月
進行がんで治療が難しいとされた状態から大きく改善し、ほぼ完治のようになるケースもあれば、完治とは言えないまでもがんの進行がほぼ止まるようなケースである。いずれにしても、通常の予想に反して良い方向へ病状が改善することである。
アメリカの研究者であるケリー・ターナー氏の著書『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)は、劇的寛解を遂げた人たちに共通する9つのことを記した本で、New York Times ベストセラーになった。寛解した人たちに「共通していた要素」を研究から抽出したもので、「抜本的に食事を変える」、「治療法は自分で決める」、「直感に従う」、「ハーブとサプリメントの力を借りる」、「抑圧された感情を解き放つ」、「より前向きに生きる」、「周囲の人の支えを受け入れる」、「自分の魂と深くつながる」、「どうしても生きたい理由を持つ」の9つである〈2〉。
2.Turner KA. Radical Remission: Surviving Cancer Against All Odds. San Francisco, CA:HarperOne. 2014.
