熱心に取り組んできていた社会活動
それ以前から社会活動にも熱心に取り組んできた。アトランタ五輪を終えた直後の1996年の冬にカンボジアで開催するレースに招かれたのを契機として、その2年後には、スポーツを通じて現地の子供たちが生きる力を持てるようなきっかけをつくろうと「ハート・オブ・ゴールド」という団体(2001年にNPO化)を設立している。
このほか、国連人口基金親善大使、スペシャルオリンピックス日本理事長、IOC(国際オリンピック委員会)「スポーツと活動的社会委員会」委員、母校の日本体育大学や就実大学の客員教授などを歴任した。それも《私にとって、来るものはすべてチャンス》(『婦人公論』2006年5月7日号)と思って引き受けたものだった。
競技者としては結局、2007年の東京マラソンをもって現役を引退した。プロとしての走りはもうキープできないと判断してのことである。とはいえ有森は、オリンピックでメダルをとった人間は、そこで培ったものを次に活かして初めて、いい生き方をしたと評価され、メダルの価値も出ると、アトランタ五輪以来考えている。彼女がさまざまな役職を務めているのは、そのせいでもあるのだろう。
他人の評価よりも大事なこと
有森は、他人の評価よりも、自分自身が自分のやっていることをどう思えているかのほうが大事だと常に考えてきた。アトランタ五輪での「自分で自分をほめたい」という言葉も、そうした考えから出たものだ。その姿勢は他人に対しても変わらない。
RIGHTS.では子供たちが共同生活をしながらさまざまな体験をするキッズキャンプも主催しているが、そこで彼女は子供たちをほめるときも、「よく頑張ったね」などと自分の評価は入れず、「どうだった?」と訊くようにしている。それは、頑張ったか頑張らなかったかは本人が一番わかっているからで、「頑張った」という言葉が返ってきたら、「頑張ったのならよかったね」というふうに言ってあげるという。
対談でそのことを聞いた臨床心理士の堀越勝は、それは「ほめる」というよりは、むしろ「認めてあげる」というのに近いと解釈した(『こころの科学』2017年11月号)。これを踏まえると、有森は個人の価値観や判断を何よりも尊重しているといえる。それは昨年(2025年)より彼女が務める日本陸上競技連盟の会長としても、いまもっとも求められることの一つだろう。
アスリートにとってオリンピックは「ホップ・ステップ・ジャンプ」のうち「ジャンプ」ではなく、出場後の人生に向けての「ホップ」もしくは「ステップ」だと有森はかねがね話してきた。これを彼女自身に当てはめると、2度の五輪経験がホップとすれば、その後レース外で闘い続けた段階がステップといえる。ここから彼女は陸連トップとしてどんなジャンプを見せるのだろうか。
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