なぜ「悪人」を弁護するのか
今後は名古屋にもオフィスを構える予定だという。
「刑事弁護専門の事務所は国内で10社にも満たない。名古屋は競合が少ないので新たに弁護士を雇って支店を出すことに決めました。刑事弁護を生業にできることを若い優秀な弁護士に示したい」
反社会的勢力が出自の顧客のなかには厄介な人たちがいることは想像に難くない。ヤクザから顧問弁護士のオファーはあるのか。
「僕はヤクザの刑事事件は受けますが、絶対にヤクザが関わる民事は受けません。民事事件って市民対市民の戦いだから、一方がヤクザ側だとしたら、相手方に何か被害を受けるかもしれない市民がいる。そうすると犯罪の片棒を担ぐ可能性があって、そうした民事事件は一切受けないようにしています。なので、ヤクザから顧問弁護士をやってくれと言われても断っています」
ではなぜ、刑事事件では「悪人」を弁護するのか。
「民事との最大の違いですが、刑事事件は、捜査機関などの国家権力対個人の構図です。被疑者や被告人、捜査対象者は、世間から悪とみなされがちな風潮があります。でも、ヤクザであっても国民である以上は人権があるわけです。社会的に悪とみなされやすい者の権利を守る最後の砦が刑事弁護士だと考えています」
とはいえ、反社を弁護することで捜査機関に目をつけられる怖さがあるのではないかと問うと、
「それこそ、高野先生の教えで『弁護士倫理や弁護士の職務規定はしっかり学んでおけ』と、常々言われてきました。やっぱり刑事弁護って、ヤクザの人とかの依頼を受けたりする場合があるので、善悪の判断の境界線が曖昧になっちゃう弁護士が一定数います。超えてはならない一線というのがあって、それを踏み出さないのが大事だと、ずっと言われてきました。だから、危ういなと思ったら、必ず一歩身を引き、その先には絶対行かないことを徹底しています」
「弁護士が守ってるのは悪人ではない。手続きを守っている」
作中で九条が口にする刑事弁護の本質をついたセリフだ。「善」か「悪」か、単純な二元論を重視せず、依頼者の刑事責任を最小限に抑える法的戦略を立てる九条の考えに、上野氏も共感する。
「依頼者が証拠に基づいた正しい判決を下されるまで、適正な手続きに則って弁護し、また捜査当局側の法の手続きに瑕疵がないかチェックするのも弁護士の重要な役割です。だから、依頼者がヤクザや半グレであろうと、薬物中毒者であろうと、九条弁護士と同じで、法の手続きに則って弁護活動をするだけです」
縁のない世界の話であることに越したことはないが、人質司法の問題が浮き彫りになる中、刑事弁護士の存在意義は高まっている。
現在「週刊文春 電子版」では「九条の大罪」を始めとしたネットフリックスドラマを特集している。記事はこちらから読める。
うえのじんぺい 2010年、慶應義塾大学大学院法務研究科を卒業。2016年、高野隆法律事務所に入所し、同事務所のパートナーを経て、2023年にJIN国際刑事法律事務所(https://www.jin-law.jp/)を設立。
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