「西へ進むにつれて景色は荒涼としていき、気温も下がっていきます」
許監督は撮影のため、シベリア鉄道に乗って抑留者が送られた路線を西へ向かっている。
「西へ進むにつれて景色は荒涼としていき、気温も下がっていきます。戦争が終わったのに家へ帰れない、逆に遠ざかっていく彼らの絶望を追体験したようでした。いま走っている列車も、路線は当時とほぼ同じです。列車のなかで、自分はいま呉正男さん約60万人の兵士たちに近いところにいる、と感じていました。旅のあいだ、私はよく空を見上げたんです。地平線の上の苦痛から一瞬でも離れられるのは、空を見ているあいだだけではないか。当時の彼らも同じことをしたのではないかと思いながら」
日本兵として戦った台湾出身の人々、その子や孫に会う中で監督が驚いたのは、人々の記憶があまりにもばらばらなことだった。
「ご家族が語ってくれること、持っている情報や記憶は本当にばらばらで互いにつながらないんです。私は撮影にあたっていろいろな国の記録や公文書を大量に読んだので、ある意味では当事者やご家族よりも、全体についての知識だけは持っている。でも戦争の当事者やその家族から見えているのは本当にごく一部なんです。ほかの当事者の記憶をつないでいくことで『そういえば……』と思い出が連鎖して掘り起こされていく。そのときにいちばん感情が動く。戦争を戦った家族についての謎を解いて、真実を掘り出して明らかにすることが私たちの役割なのだろうと思いました」
◆◆◆
映画『零下五十度の抑留者』は9月5日から、シアター・イメージフォーラム、横浜シネマリンほかで全国順次公開されます。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。




