「はぁ? なんだそれ?」
即日付で辞任したという。
「はぁ? なんだそれ?(ホワット・ザ・ファック?)」という反応が一番しっくりくる状況だった。
ニケシュは落ち着いて見えたが、私の目はごまかせない。ナネアで私の肩に腕を回してきたときの彼の笑顔を憶えている。こんなことは予想していなかったはずだ。
「今日、このあと発表することになる」と彼は言った。
報道機関向けの発表は午後3時に出された。欧米メディアが朝刊のトップ記事で取り上げるのに間に合うタイミングだった。
年俸5000万ドル以上も稼ぐ男がなぜ急に辞める決断をしたのか? ガルフストリームのプライベートジェット、ジョージ・ロバーツとのゴルフ、ダボス会議や投資銀行アレン・アンド・カンパニー主催のサンバレー会議への招待、そういう権力を飾るすべてをなぜふいにするのか?
私は本人に尋ねた。
「まあ、彼に言われたんだ、当分CEOの座を退くつもりはないってね。合意してた話と違うけど、それならそれで仕方ない。それと、彼はアームの案件をやりたがってて、とにかく張り切ってるんだ」とニケシュは答えた。
孫はニケシュを後継者と公言していたし、自分が60歳を過ぎたら彼に権限を譲ることを内々に約束していた。このどこか恣意的な定年は、かねてから広く周知されていた孫のライフプランの一部だった。
離婚はときに悲しいものだ。とくに、双方それぞれと楽しい思い出を共有してきたならなおのこと。落胆はあるものの、別れる理屈は理解できた。孫は59歳とはいえ、私がこれまで見てきたのは、子どものようにピンポン台で跳ね回る彼の姿だった。その姿は健康そのもので、ソフトバンクは彼の人生のすべてだ。それに、孫のいないソフトバンクはイエスのいない教会のようなもの。孫が陰の実力者として裏に退くなど、想像もつかない。
いっぽう、48歳のニケシュはまさにいま脂がのりきったところで、自分がトップだと証明したくてうずうずしていた。グーグルを辞めたのも、トップへの明確な道筋が見えなかったからで、ソフトバンクの「次期CEO」にいつまでもとどまることは、ニケシュ自身のライフプランにそぐわなかった。
公式声明のなかで孫はこう語っている。