一方その頃、江里香さんは幼い子供二人を抱えていた。保育園も見つからない。現場に立つこともできない。
「何もできなかったんです。家で子供の面倒を見ながら悪い報告を聞くだけでした」
声が少し震える。
「もがけばもがくほど深みにハマるんです。完全に泥沼でした」
アメリカの店舗が立ち行かず、潰えた夢
さらに追い打ちがかかる。アメリカの件だった。東京での店づくりと並行して、ニュージャージーでも店がオープンした。
「東京をしっかり軌道に乗せたら、いずれ家族でアメリカへ移住しよう」
そんな未来を、本気で思い描いていた。実際、翼さんは現地にも何度も足を運び、日本とアメリカを行き来する日々を送っていた。
ところが、その夢は長く続かなかった。現地に任せていた運営が少しずつ歯車を狂わせていく。
東京では野方店の突然の営業停止、中野への移転・閉店と、目の前の火消しに追われる毎日。その間、海の向こうで起きている問題に十分な時間を割くことができなかった。
「東京を整えてからアメリカへ」。そう思っていた矢先だった。
ニュージャージーの店は半年ほどで立ち行かなくなった。移住の夢は消えた。店も失った。残ったのは借金だった。
この話になると、翼さんは少し視線を落とし、多くを語ろうとはしない。隣に座る江里香さんも、珍しく言葉を選んでいた。
「詳しくは言えないんですけど……」
少し間を置いてから、静かに続けた。
「言ってみれば、うまく使われてしまったのかもしれません」
その一言だけで十分だった。それ以上を語らない二人の表情が、あの出来事の重さを物語っていた。
「もう終わったことなので」
そう言って江里香さんは小さく笑った。普段の明るい笑顔とは少し違う、その控えめな笑みから、当時の苦しさが伝わってきた。
借金は最大2500万円…妻「呪われているんじゃないかと」
東京の店もない。アメリカの店もない。残ったのは借金と幼い子供二人だった。
「呪われているんじゃないかと思いました」