死が怖くなっただけでは
通常、2人以上を殺害したケースでは、2016年に発覚した、患者3人への殺人罪に問われ、果てに無期懲役となった「大口病院連続点滴中毒死事件」のような例外はあるが、判例からして死刑になることが少なくない。冷静に考えれば、死が怖くなっただけ。県警は、人形を使い転落死の再現実験もして供述の裏付けもしたというのだから、今井の言動には、なお拭えない違和感があった。
事実、今井の自白は録画もされていて、強要や誘導尋問のたぐいを疑う余地などないように思えた。動画は、事前に得られた車の中での自白を可視化するために、供述調書を取るなかで改めて撮られた。
今井の自白の信用性を審理するにあたり、公判で取り調べの様子の一部、およそ4時間分の動画が再生された。モニターは裁判員側に向けられていた。今井の表情などはわからないなか、傍聴席では音声だけが聞かれた。映像内の発言を文字に起こした資料や、裁判を傍聴した知人記者の話を元に主要部分を抜粋して当時を再現する。
冒頭は、取調官による、丑沢さん殺害についての今井への質問だ。
「本当のことをぜんぶ話せるか」
「殺そうと思って殺しました。これが事実です」
「どうやって殺害したか覚えてる?」
「ベランダから突き落として殺しました」
「丑沢さんが4階食堂のテレビを壊したことで爆発してしまったってことね」
「はい。ずっとため込んでいたストレスが爆発しました」
「で、殺すことを決めたってことでいいのかな」
「はい」
その後、動画は、今井が被害者を転落させた際の状況などを手振りを交えて説明する場面になった。
だが、最後に、混沌とする裁判を予見させるような場面もあった。
「裁判で自分の声で本当のことを言うと決めたので、黙秘します」
語るに落ちると言わざるを得ないというか、確かに今井が無理強いなく自白する証拠シーンが残されていた。それでも弁護側は、主に録画が行われる前の取り調べで取調官から圧迫があり、ウソの自白をしたと主張した。