そして3件の転落死は事故や自殺の可能性があることを訴えたばかりか、仮に今井が事件を起こしていたとしても、発達障害などにより刑事責任能力を争う構えを示した。

 自白、健忘症、黙秘、犯行時間帯に施設内にいた記憶はある――だが録画が行われる前の取り調べで取調官からの圧迫があり嘘の自白をしたと、今井の主張はいつも後付けで変わってきたことになる。今井の主張は一貫せず、その揺れは事件と向き合い切れていないことをうかがわせた。

 公判は自白の信用性や責任能力を主な争点として進んだ。

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「事故や自殺の可能性はほぼない」

 2018年3月1日、横浜地裁において今井への判決が言い渡されることになった。

「主文は後回しにします」――。

 判決主文ではなく、判決理由から始まった。これは、後に死刑判決が言い渡されることを意味していた。被告人が動揺して影響が出るのを防ぐために結論を後回しにするのだ。

「自力でベランダの柵を乗り越えることは不可能」

「事故や自殺の可能性はほぼない」

 判決は、転落死した3人の事件性を検討した結果から述べられた。そして「被告が犯人と推認できる」としたのは、3件の転落死発生時に夜勤をしていたのは今井ただひとりだったことはもちろん、さらに今井は逮捕直前に母親に電話でこう話していたことが明らかにされたからだった。

「自分がやった」

 そして、妹に泣きながら謝ったとされている。

「冷酷、卑劣で残虐な連続殺人」

 つまり取調官だけでなく、圧迫のない母親や妹にも自白していたことになる。

 検察側の主張は、こうだ。

「非力で高齢な入居者の介護職員への信頼を利用した、冷酷、卑劣で残虐な連続殺人だ」

「関係者の証言や被告人質問などで十分な立証責任を果たした」

「自白には取調官の圧迫もなく、内容は迫真性があり詳細で信用性が高い」

「被告が公判前の精神鑑定で診断された発達障害(自閉スペクトラム症)の影響も顕著ではなく、動機の一部に影響したに過ぎない」

 一方、弁護側は大きく2つの理由から寛大な判決を求めた。

「3件の転落死は客観的証拠が乏しく事故や自殺の可能性がある。仮に事件だとしても被告を犯人とする証拠はない」

「捜査段階での自白は取調官の意に沿うようにウソを述べたものだ」