「2つの世界の狭間」を行き来する――村上春樹と須賀敦子

 大学生だった私にとって、内側に向かう読書の代表的な作家と言えば、何よりもまず村上春樹でした。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ノルウェイの森』など、20代の頃は読む度に泣けた。それから須賀敦子も同じ系譜に入ります。

村上春樹著『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮文庫)
村上春樹著『ノルウェイの森』(講談社文庫)

 この2人の作家の本を読みながら気づいたのは、私が惹かれるのは「2つの世界の狭間を行き来したり、あるいはそこに落ちたりする人の話」だということでした。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』なんて、まさにそのテーマをカリカチュアライズしているわけだし、『ノルウェイの森』だって死んでいる人と生きている人の間を行ったり来たりしている話ですから。

 また、須賀敦子も日本とヨーロッパの間に身を置いた作家の代表的な存在です。「2つの世界の狭間に身を置いて、アンコンフォタブルなくらいがちょうどいいのだ」という彼女の感覚には今も深く共感します。文字通りの「気の合う作家」ですね。

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須賀敦子著『コルシア書店の仲間たち』(文春文庫)

 今から振り返れば、当時の私が村上春樹の世界に強く引き付けられたのは、東大の駒場キャンパスという場所が、自分にとって村上春樹的な「壁」のイメージと重なっていたからだという気がします。

 別に何かとんでもないトラウマを抱えていたわけではないけれど、でも多感な時期ですからやっぱり思うところはある。何よりキャンパスという環境が好きで、どこか閉ざされた空間の中にいると落ち着く。と同時に、外に出るのは少し怖くて身構えてしまうけれど、いざ出てみると楽しい。その学生時代ならではのアンビバレントな感覚が、村上春樹の書く世界と呼応していたんでしょうね。

※伊藤錬氏の本記事全文(6500字)は、月刊文藝春秋の電子版「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、以下の内容も語られています。
・20代で読む村上春樹と40代で読む村上春樹
・阿川尚之先生が私のロールモデル
・AIという本業と読書

伊藤錬(いとう・れん) 2001年、東京大学法学部卒業、外務省入省。2度のワシントン勤務や、日米安保、日EU経済連携協定交渉に従事。通訳として日本の首相と米オバマ大統領(当時)の首脳会談も経験した。メルカリと英スタビリティーAIの役員を経て、2023 年に Sakana AI を共同創業。2004年ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了、2005年スタンフォード大学東アジア研究所修士課程修了。米ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。

文藝春秋

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「自分の内側に沈んでいく読書」と「外の世界へ向かう読書」
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