この映画に倍賞千恵子が出演するのか、とキャスト発表に衝撃を受けたのを覚えている。8月7日に公開された福原遥主演の映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』は、松竹の配給で今もロングランを続けている。

映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』公式Xアカウントより

なぜ大ヒット? 誰も予測できなかった興行収入45億円突破

 前作、2023年に公開された『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、ある意味では日本映画史に残る現象をいくつも残した作品だった。ひとつは言うまでもなく、その興行収入である。最終的に45億円を突破したそのヒットのすさまじさは、『おくりびと』(2008)や、嵐初のライブフィルム『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM "Record of Memories"』(2021)に次いで、松竹実写映画の歴代ランキングに今も並んでいる。

 だが特筆すべきは、そこまでのヒットになることを誰も予測していなかったこと、それどころか今もなお、なぜヒットしたのかという分析を誰もできていないことである。『おくりびと』は米国アカデミー賞外国語映画賞受賞という日本中を驚かせたニュースがあった。嵐のライブフィルムについては、日本全国に巨大なファンダムがあることを誰もが知っている。だが『あの花が咲く丘で』は、原作小説がヒットしていたとはいえ、興収45億というとてつもない動員は想定外だったのだ。

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映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』公式Xアカウントより

 そもそも、日本映画の歴代興行収入ランキング上位100位の一覧表を見ればすぐにわかることだが、100位以内の大ヒット作は8割がた東宝配給、次いで1割ほど東映配給の作品があるという状態である。21世紀に入り、TOHOシネマズなど大規模なシネコン系列を持つ東宝の一人勝ち状態はさらに強まっている。

 そんな中、松竹配給の恋愛映画が、2007年に東宝とTBSが新垣結衣と三浦春馬を主演に据えて送り出した『恋空』の39億円や、2017年に同じく東宝と博報堂が製作委員会に名を連ねて浜辺美波と北村匠海が演じた『君の膵臓をたべたい』の35.2億円を超えてしまうというのは、作品の評価以前に映画興行システムの常識をひっくり返すようなヒットだったのだ。

『恋空』や『キミスイ』は原作が『あの花が咲く丘で』以上にヒットし、社会現象と言われていた。松竹配給という配給ネットワークの絶対的ハンデがありながら、なぜ『あの花が咲く丘で』がそれを大きく超えるほどのヒットになったのか。前作から3年が経った今も、説得力のある分析は出ていない。

「女子高生が特攻隊員と恋に落ちる映画」への政治的批判

 もうひとつ興味深い現象は、それほどのヒットにもかかわらず、前作『あの花が咲く丘で』は政治的に正反対の批判を同時に受けたことである。現代の女子高生がタイムスリップして特攻隊員と恋に落ちる映画、と聞けば、左派論客がいい顔をしないのはたやすく想像できる。「特攻隊を美化するのか」「エモ消費だ」という酷評、揶揄がSNSにはあふれかえった。