樹生役の中島歩は放送前に「T乾」の脚本を読んで「安易な共感や感動を寄せつけない」作品になると予告していたが、まさにそのとおりになった。このテーマの繊細さと煽情的な手法の不釣り合いを吸引力とみるか雑さとみるかは人によるだろうが、ともあれ夏ドラマ1番の話題作であるのは間違いない。
充には共感者が現れたが、あずさはほとんど存在しない
興味深いのは、多くの人の非難の対象になっている充とあずさの間でも、共感を表明する視聴者の数に差があることだ。
嫌われたくない妻には本当の自分を言えず、嫌われてもいい他人のあずさにだけは失踪癖のことを打ち明けられた充には、一定の共感者が存在する。親の愛情を受けずに育ち、親族と疎遠だったというストーリーもあり、「理解できても共感はできない」という声もあるが、理解できる筋はきちんと用意されていた。
しかし現時点で、あずさへの共感者は極めて少ない。かつてなら露骨に悪女として書かれたであろう役どころだが、さばけた口調で距離を詰め、気持ちが決まっているときほど断定を避ける。児童養護施設で育つなど苦しい生い立ちも語られ、変わった距離感や倫理観の原因らしきものも示されてはいる。
それでも特に女性視聴者の反発は強く、悪女として書かれていないぶんかえって始末が悪い、と受け取られ「こういう女いちばん嫌い」という人さえいる。
4日に放送される第9話の予告では、咲子のパーソナリティに何らかの問題がありそうなことが強く示唆されており、次は咲子に苛立ちが向けられることになるのだろう。
個人的にはここまで煽りまくってきた以上、ぬるりとわかりやすい着地にはならないことを願いたい。誰かを悪役にすることで進んできたドラマが誰のことも断罪せずに終われれば、「優しい主題と怒りを煽る悪辣な方法」のズレは埋めることができる。名前のない関係を、名前のないままに置いておく。それができたとき、毎週きっちり怒らされてきたことにも意味が出てくるだろう。
