「あたしのとこに来て、『小松さん、今日ってどんなことやるんですか?』って不安そうに聞くのよ。でもそれって、あたしに聞くことじゃないでしょ?」と。
なるほど、たしかに小松さんは衣装を用意してきた人です。だから用意したその衣装でこれから何をやるかなんて、そんなこと小松さんは誰からも聞いてないはずです。だから「そんなこと私に聞かないでよ」と小松さんは若手に対して憤慨しているわけです。
「なるほど。でも、若手が小松さんに聞いたってことは、なんとなく藤やんに聞ける雰囲気じゃなかったってことだろうね。だから若手もつい小松さんに聞いちゃったってことじゃない?」
「たしかにね」
そうです。監督が撮影当日、近よりがたい雰囲気を出しているのなら、それは監督自身もまだ自分がこれから何をやればいいのかが分かってないということです。だから「オレに聞くんじゃねぇ圧」を出しているのです。
これこそ『水曜どうでしょう』の流儀
でも、世間のみなさんは、このような私の解説を聞けば聞くほど不思議に思われるかもしれない。「だって、何も決めずに仕事に臨むって、それってどういうこと?
なんか、すごく不真面目じゃないですか?」って。
ですが、これが『水曜どうでしょう』流のロケ現場に臨む姿勢なのです。とりあえず衣装も小道具も用意だけはして行くんですが、でも、実際、撮影自体がどうなるのか、どこでどのようにおもしろくなるのか、そんなことは状況がどうにかなり始めるまで誰にも「分からねぇよ」という、そういう武芸者のような構えです。果たし合いです。
まずは相手の出方をじっと待ち正眼に構える。相手が動いたとみるや瞬時に動いて一気に勝負を決する。
「だから、そこを若手は分かってないのよ」と、小松さんと私は、世間にはとうてい理解されない『水曜どうでしょう』の仕事に臨む境地ともいえる高等な姿勢に、だんだんと話が及んでいくのです。