将棋界はAIの登場により、2010年代から定跡の発達スピードがどんどん上がっている。研究するにしてもAIを使えば従来よりもはるかに深く掘り下げられるようになったため、序盤から神経を使う将棋が増えた。久保利明九段にとって、AIと振り飛車の関係はどのようにみえているのだろう。

 女流棋界は振り飛車党のふたりがタイトルを分け合う状況が続いている。しかし、後輩で居飛車党の有望株がタイトルに挑戦したり、棋戦上位に勝ち上がることが増えてきた。競争の激しさを象徴する棋戦が、2020年に始まった女流順位戦である。回を重ねるにつれて、4つのクラス分けは非公式のレーティング順位とほぼ一致しつつある。2026年から引退制度も女流順位戦を主軸にすることが決まり、ますますその重要性は増していきそうだ。

久保利明九段 ©︎杉山秀樹/文藝春秋

 久保九段は実娘を含む女流棋士2人を門下に抱える。西山朋佳女流四冠と福間香奈女流四冠の振り飛車の特徴、新鋭クラスの争いの厳しさについても話してもらった。(全3回の2回目/つづきを読む)

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「私の場合、振り飛車が東京駅です」

――将棋以外の本もかなり読んでいるそうですが、最近の関心は何ですか。

久保 量子コンピュータに興味があったので、量子力学を勉強しています。量子コンピュータができたら、今よりも爆発的にAIが強くなるはずです。頭のてっぺんには「将棋の役に立てたい」というのがあり、趣味も何かしらに繋げたいですね。

――量子力学が将棋の役に立つんですか。

久保 どうでしょう(笑)。先に興味があって、何か役に立たないかなと思っている状況です。

――将棋とは無関係の分野の本を読んで、対局に役立ったことはありますか。

久保 ありますよ。例えばゴルフの本には、プロゴルファーの人がショットを打つときにどういう気持ちで打ったらいいかを書いてあります。それは対局中の感情と似ています。

 いまでも覚えているのは、片山晋呉さんの「自分の中に東京駅があれば大丈夫」。どこに旅に行っても、例えば打ち方やクラブを変えたり、どんなにいろんなことをやって調子が悪くなっても、最後は自分の中に戻れば大丈夫という意味です。その感覚はストンと腑に落ちるものがありました。

 私の場合、振り飛車が東京駅です。居飛車をやったとしても、いつでも振り飛車に戻れるから安心していい。実際に少しだけ居飛車をやった時期もありました。それでも振り飛車への思いは強いし、火を消したくない。ファンの人にも求められていると思うので、いまは振り飛車で頑張るつもりです。