現在2位で、優勝への追い上げを図る読売ジャイアンツ。今年5月の阿部慎之助監督の電撃辞任と橋上秀樹氏の監督代行就任という前代未聞の騒動に見舞われながらもチームは快調に勝ち進んできた。ここに至るまで巨人軍が辿ってきた長い道のりを知る人物がいる。元巨人軍広報部長の鈴木伸彦氏だ。今回、鈴木氏は一冊の本(『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』)を手にしたことを機に、まざまざと思い出したというチームの歴史、そして3人のキーマンたちが織り成す物語を緊急寄稿した。
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阿部監督逮捕後の巨人軍の雰囲気
戸郷翔征投手、橋上秀樹監督代行、清武英利元球団代表――。リベンジにかける男たちのドラマには、いつも引き込まれてしまう。
6月10日の宮城球場。交流戦楽天対巨人戦は9回裏、楽天が2死1、2塁の好機を迎えていた。阿部慎之介監督の突然の辞任に伴い、急きょ指揮を執ることになった橋上・読売巨人軍監督代行は、7対0の大量リードにもかかわらず、外野手に前進守備を指示した。
マウンドには戸郷投手。万一、打球が外野を越えると複数点につながる。点差を考え、通常は外野手を前進させたくない。だが橋上代行は1点も奪われたくなかった。戸郷投手に2年ぶりの完封を贈りたい。自信を取り戻させたい。彼を思う「やさしさ」だった。
かつて2年連続で開幕投手を務めたエースは、昨季2度も二軍落ちし、もがいていた。今季も開幕二軍スタート。一軍に上がっても、6月3日の「長嶋茂雄さん一周忌特別試合」で、わずか14球で危険球退場になった。
だがこの日は、直球に迫力があった。最後の打者を遊ゴロに打ち取る。自己最多の14奪三振で665日ぶりの完封勝利だ。一度どん底を見た男がリベンジを果たした瞬間だった。白い歯を見せる橋上代行とハイタッチ。戸郷投手が照れくさそうに、はにかんだ。
それは同時に巨人が今季初のリーグ単独首位に立ち、橋上代行自身のリベンジが始まった瞬間にも思えた。試合終了直後、最初にベンチ内のスタッフに頭を下げる光景が見えた。
好調の原因を報道陣から尋ねられると、「スコアラーを含めた対策が少しずつ形になってきたと思います」。ここでもスタッフたちへのねぎらいの言葉を口にした。
交流戦開始前日、阿部前監督が暴行容疑で逮捕され、翌日から監督代行を任された。巨人軍での選手経験がないのに指揮を執るのは球団初めて。「外様」に務まるのか。冷やかな声もあった。誰もが混乱したチームの、敗戦処理の役目を負わされるとイメージしただろう。
だがチームは生き生きとしてきた。空気が変わったのは確かだ。「ベンチ内に笑顔があふれ、チーム内の風通しが良くなった」。そういう報道を頻繁に見る。橋上代行の相手の立場に立ち、周囲の気持ちを大切にする「やさしさ」がチームに新しい風を吹き込み始めた。
“招かれざる客”だった橋上監督代行
だが、橋上監督代行のここまでの道のりは、決して平たんではなかった。「よそ者」扱いされながらも、よくそれに耐えてきた。
そもそも最初に、橋上代行を巨人軍に招いたのは、清武英利・元球団代表だった。2011年秋、当時橋上代行が監督を務めていた新潟の独立リーグのチームと巨人二軍の交流試合をきっかけに、二人は知り合った。試合当日の夜、球団事務所の一室で披露した「野球観」に清武元代表が魅せられた。故野村克也監督のもとでデータ重視のID野球を学んできた。「一軍戦略コーチ」のポストを新設して、彼を呼んだ。
