打ち上げ会場は最高に盛り上がり、巨漢の役者に担がれた小川さんが会場を練り歩く。さながら勝利の女神だった。遠巻きに眺めていた私に、アンサンブル、つまりはその他大勢役の若い俳優さんが近づいてくる。

「小川さんの付き人さんですよね、ということは君も役者志望? いいなあ、小川さんみたいな凄い役者さんを毎日そばで見られるなんて……!」

 きっと年齢もそんなに変わらないであろう彼の目が煌めいている。半年前、私もこの人と同じような目で小川さんを見ていたのだ。

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「じゃあ……代わりましょうか。付き人、小川さんの」

「は……?」

「きっとあなたみたいな人だったら小川さん、喜んで付き人にすると思う」

「何を言い出すんですか、あなたはどうするんですか」

「はは……いや、なんでもないです。すみません」

 小川さんの凄さは分かった。ただあのエネルギーは、かくもエゴイスティックに生きなければ出てこないものか? 嫌われようとなんだろうと構わないぐらい自己中心的にタフでなければ、あそこまでにはなれないものか? 虚脱感に襲われ、外に出た。廊下に座り込んでぼんやりしていたら、我が雇い主の声が会場の喧騒を超えて響いてくる。

婚約発表する俳優の橋爪功、小川真由美さん ©共同通信社

「あっちゃん、どこにいるのッ? 言ってるでしょう、いつでもあたしだけ見ていてって。どこよ、どこにいるの―――?」

強烈で不可解だった「大女優」のこと

 公演が終わって、私は小川さんから離れた。彼女が求めているのは付き人ではなく、奉仕者だ。もっと彼女に身も心も捧げたいと思う人が付いたほうがいい。このままでは小川さんのノリに慣れて、染まってしまいそうな自分も怖い――そう思ったあの日から幾星霜。訃報を聞いて、付き人の日々のことを書いてみたいという思いに駆られた。私が人生で関わった中で、最も強烈であり、不可解だった「大女優」のことを書き残しておきたくなった。

 あのときに覚えたことで、私の生活の一部となっていることがひとつだけある。それはお茶の淹れ方だ。

「急須に茶葉を入れてお湯を注いだらまず20秒数えるの。そしたら湯呑みに半分まで注いで、もう2分待ってから、残りを注ぐ。こうするとね、本当においしいの。名人に教えてもらったのよ。あっちゃん、今後はこうやって、あたしに淹れてちょうだいね」 

 甘やかなあの声が、耳に残って今も消えない。

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