しかし、見込みと違い、ここも安住の地とはならなかった。雇い主は薄給と時間外労働をさせるのみならず、男女構わず暴力を振るったのである。それでも歯を食いしばり苦難に耐え続けたが、身寄りのない結海さんは常に足元を見られており、ついに寮から飛び出したという。
その後、結海さんはインターネット上で知り合った都内の女性を頼った。結海さんの生い立ちを知った上で親身になって相談に乗ってくれる人だった。結海さんは言う。
「家がないと言うと、彼氏と同棲していたのに、ちょっとの間だったらいていいよと言ってくれて。場所は横浜です。誰にも知らせず静岡から出ました」
彼氏を追って高知へ
以来、その女性は居酒屋のキャッチのアルバイトを紹介してくれたりなど、何かにつけ、結海さんを支援してくれたという。
誰も自分の過去を知らない土地は居心地が良かった。だが、いつまでも甘えるわけにはいかないとも思うようになったという。
そこで知り合ったのが、バイト仲間で、高知から来て一人暮らしをしていた専門学校生の男だった。すぐに男女の仲になり、世話になってばかりの女性に負い目を感じていた結海さんは、実家に戻るという彼氏を追って高知へ行った。
が、その生活も短く終わってしまう。彼氏の両親も、息子の恋人だからと快く受け入れてくれたが、その反面、まだ10代半ばの未成年の結海さん。ほどなくしてその彼氏と別れ話になると、とたんに邪魔者扱いされてしまい、家から追い出されて警察に保護される流れで強制的に静岡の叔父母宅に戻されてしまったのだ。
数年ぶりに叔父母宅に戻ったが、やはり居心地のいい場所ではなかった。すぐにまた虐待が始まったのである。
数週間後、やはりここで生きていくことなど考えられないと思っていた結海さんに、逃げ出すチャンスが訪れた。結海さんは叔母と叔父が買い物に出かけて家を空けたときに、見かねた従兄弟の兄に「いましかない」と言われ、荷物をまとめて飛び出したと語った。
「それが、従兄弟のお兄ちゃんとの最後です」
そうしみじみと話したなかには、あのとき助けてくれた感謝がある。その感謝を忘れていない結海さんは「俺は昼寝してたって嘘をつくから」とまで言ってくれた従兄弟へ迷惑をかけないために、以来、親族の誰とも連絡をとっていない。