「厳しすぎる状況」を受け、駅弁はどんどん「駅の外」へ
厚生労働省によると、東京都の最低賃金は2011年10月の時給837円から、30品目バランス弁当が終売した2025年4月では同1163円と約39%上昇していた。これに対し、弁当の価格は850円から1000円へ約18%の値上げにとどまった。
さらに、農林水産省の統計では、米の相対取引価格(全銘柄平均)は、2011年産の通年平均が玄米60キロ当たり1万5215円だった。これに対し、2024年産の2025年3月までの年産平均は2万4500円と、約61%高い水準に達していた。
実際の人件費や仕入れ価格は公表されておらず、これらを終売の直接的な理由と断定することはできない。それでも、手間のかかる商品を手頃な価格で提供し続けることが、2011年の取材当時より難しくなっていたことは、容易に想像できる。
催事だけでなく、身近に駅弁を買えることで「毎日が駅弁まつり」のようになった一方、取り巻く環境は厳しさを増しているわけだ。
駅弁を製造・販売する事業者などで構成される日本鉄道構内営業中央会の公表資料によると、加盟事業者は2016年度初めの97社から、2017年3月末には95社、2022年4月には86社へ減少した。2026年8月現在は80社となっている。中央会に加盟していない事業者もあるため、全国すべての駅弁業者を示す数字ではない。それでも、老舗を中心とする業界の縮小傾向は読み取れる。
もはや、地方の駅で旅行者を待つだけでは、商売は難しい。利用者の多い主要駅や都市部の催事へ商品を運ぶ方向へと、駅弁業者が生き残りをかけて販路を広げてきた背景には、こうした流れがある。
高価格帯の駅弁が目立つようになった背景には、豪華さを求める消費者の嗜好に加え、ここまで触れた原材料費や人件費、地方から都市部へ届ける輸送費など、供給側のコスト増もあると考えられる。
こうした「ご当地性」「豪華さ」「駅の外への展開」が進むなか、東京駅で日常的に選ばれた「30品目バランス弁当」は異色の存在といえた。時代の流れとはいえ、地味ながら根強いファンがいた駅弁が姿を消したのは、寂しい限りである。
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