「どちらにも感情移入できる2人」として作られたが…

 だが、作り手の出発点は違った。宝島社のフォトブックで筆者が脚本家の吉澤智子にインタビューした際、制作統括が当初2人を「真逆のキャラ」として考えていたのに対し、吉澤とチーフ演出が「それは違う」と押し返したという経緯を尋ねた。吉澤はこう語っている。

「ふたりは違ったタイプではありつつも、わかりやすい記号的な真逆にはしたくないと思いました。りんは迂闊さがありつつ、ものを深く考える賢さもあり、直美は家族がいないぶん、自分の幸せを自分の力で勝ち取る強さがある。その差を描きたいと思いました」

『風、薫る』公式Instagramより

 同じ本では、制作統括とチーフ演出も「どちらの考え方も理解できる、どちらにも感情移入できるふたり」を意識したと語っている。吉澤も、りんが直美に教えられることもあれば、直美の間違いをりんが指摘することもあるとし、欠点があるからこそ共感できるつくりを目指したという。

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 役割で2人を振り分けるステレオタイプを外し、人間のリアルを描こうとした時点で、バディものとしてのハードルは一段上がった。そもそも人は、真逆と言い切れるほど単純ではない。ただ、作り手のこの狙いと、「真逆の2人」という見る側の受け止め方とのあいだにはずれがあった。それが「わかりづらい」という声の一因になったと考えられる。

りんは「優柔不断」なのか

 真逆の型で見れば、良家に生まれたりんは、優しく、ちょっと優柔不断な主人公に映るかもしれない。だが実際には、思ったことをすぐ口に出してしまい、「私、また間違えた」をくり返す人物だ。当時の女性の幸せとされた「奥様になること」を最初はまっすぐ選び、そこから変わっていく。吉澤も、本作は「そこらへんにいるちょっと迂闊な人が大人になっていく物語でもあります」と話していた。とはいえ、物事を深く考える聡明さも、図太さもある。控えめな良家の娘にも、ドジっ子主人公にも収まらないぶん、かえってつかみにくい。

『風、薫る』公式Instagramより

 対する直美は、クールな性格で他者を信じず、幸せに育った人を嫌い、生きるためなら嘘も平気でつき、人を利用するしたたかな人物として登場した。その直美が、りんや仲間との関わり、看護の経験を通じて心を開き、ほぐれていく。この変化の筋道は、見る側にも受け取りやすかった。

『風、薫る』公式Instagramより

 2人の歩みは、幾度も交差する。直美が看護婦として力をつけていくのと入れ替わりに、りんは人の命に触れることが怖くなり、手が震えて看護ができなくなる。いったん看護を離れ、地方の女学校で寮の舎監を務めていたが、近くの村で赤痢が流行すると看護に向かい、そこへ駆けつけた直美が助ける。看護ができなくなったりんにタオルを投げたのも、この道に引き戻したのも直美であり、W主人公ならではの熱さが最も際立ったのは、このくだりだろう。