上野千鶴子さんは74歳になった2022年の秋、講演の出張中に転倒し、「腰椎圧迫骨折」と診断された。その経験からの学びを語る。
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人生で経験のない痛み
タフに見られがちな私ですが、とんでもない。痛みに弱く、拷問するぞと脅かされただけで全部ばらすタイプです(笑)。
腰椎圧迫骨折の激痛は、私でなくとも我慢でどうにかなる痛みではないと思います。私はスキーが趣味で何度も骨折してきましたが、比較にならない。これまでの人生で経験のないレベルでした。
正気でいられるのは座薬の鎮痛剤が効いている間だけ。一度入れれば8時間弱は持ちますが、副作用で吐き気が出るので、1日2回しか使えない。薬が切れている残りの8時間は寝返りひとつ打てず、泣きながら過ごすほかないのです。その状態が丸2週間続きました。
3カ月後にコルセットが外れて完治とされましたが、影響はいまだに残ります。姿勢は悪くなり、どことなく腰をかばうのと人とぶつかるのが不安なのとで歩くスピードが遅くなりました。前屈で手のひらが床につくのが自慢だったのに、そこまで腰が曲がらない。マッサージに行くのが数少ない楽しみの一つでしたが、知らない人に思わぬところを触られるのが怖いので諦めました。
身長は一挙に2.5センチも縮みました。事故後最初の人間ドックで、計測してくれた人が「前年に比べて2.5センチ縮みましたね。骨折なさったのでしょう。よくあることですよ」とおっしゃいました。
驚いたのは、私が転倒した話をすると、周囲の友人たちから次々に「私も、私も」と経験談が出てきたことです。
「高齢社会をよくする女性の会」を長く率いてきた樋口恵子さんからはこう宣告されました。
「あなたも“転倒組”のお仲間入りね」
転倒がいずれは誰もが通る道だったとは。年を取るのはなかなか大変なものだと実感させられます。
“転倒組”も色々です。手をついて肩を脱臼した、鎖骨を折った、顔を打った……。私よりやや年長の方だと、絨毯の5ミリの段差につまずいたとか、座っているだけで圧迫骨折したといった話もあります。
頭を打つと大事です。脳内出血によって麻痺の症状が出かけたという友人がいました。私も打ちどころが悪ければ、今のようには仕事を続けられなかったかもしれません。
