東京大学卒業後、外資系投資銀行へ入社し、年収1100万円というキャリアをわずか9か月で手放した、田中優輝さん(27)。アイロンさえ触ったこともないところから、2024年に刺繍ブランド「北区の刺しゅう屋」を創業した。

 その後、SNSで数百万回再生される“バズ動画”を連発し、2026年9月時点でInstagramのフォロワー数は18万人超を誇る。今年7月には、著書『東大卒、年収1100万をやめて刺しゅうをはじめたワケ』(世界文化社)を上梓するなど、注目を集めている。

 そんな田中さんに、未経験で刺繍ブランドを立ち上げた理由、会社が軌道に乗るまでの苦労、外資系投資銀行員時代から変化した「働き方」などについて、話を聞いた。(全3回の3回目/1回目から読む)

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田中優輝さん ©佐藤亘/文藝春秋

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「量産ができて人の温かみがある」未経験で刺繍ブランドを立ち上げた理由

――外資系の投資銀行を退職後、起業して「刺繍」でブランドを作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

田中優輝さん(以下、田中) 大きなお金を持たない自分が世界的にファンができるブランドを作ろうと思ったら、まずはSNSで世界中に露出ができて、お客様がついてくるようなブランドが適していると考えたんです。

 そして、SNSを使うならブランドの「ストーリー」を発信するのが強いんじゃないかと思って。例えば「初めてものが売れた瞬間」とか「ブランドが成長していく過程」ってものすごく尊いものだと思うんですけど、それを発信しているブランドは他になかったので、やってみようと思ったんですね。

 中でも刺繍が良いと思えたのは「量産ができるけれど、人の温かみがある」ことでした。しかも、制作過程も見せながら世界中にアプローチができる強みもあります。「刺繍を使ってブランドストーリーを発信するブランドがあったら面白いんじゃないかな」と思い、刺繍に挑戦することに決めました。

「北区の刺しゅう屋」のトレーナー「猫と毛糸」を着てインタビューを受ける田中優輝さん

――「成功するだろう」という確信があったのでしょうか。

田中 自分の考えが合っているという自信があったので、問題ないだろうとは思っていましたね。でも、家族や友人には刺繍で起業することは伝えませんでした。

 自分にはブランドのビジョンが見えていたけど、誰かに説明してもきっと分かってもらえないですし、反対されてもどうせやるだろうと思っていたので。だから「心配をかけるだけだから周りには言わない方がいいな」と思って、言わずに実行することにしたんです。