周辺でクマの目撃が相次いだことから、駆除要請を受けた猟友会のハンターが現場に到着したのは遺体収容後の11時ごろ。そこから捕獲檻を仕掛ける作業をしていたところ、150メートルほど先で1頭のクマが笹ヤブから出てきて立ち上がった。

 以下は米田がハンターの一人から聞き取った捕殺時の状況だ。

〈竹藪が切れている所にクマがいて1人がバンと撃ったら飛びあがった。距離を詰めてバンバンと撃ったらクマの内臓が飛び出して、ひっくり返ったが藪に逃げ込んで、わおーうおーと唸っていた。これでは危なくて近寄れない。脂で血が止まることもある。月の輪を狙って胸を撃ち、7発目でやっと静かになった。それでも油断ならないから銃口でクマを突っついて確認した。射殺後も他のクマの唸り声が聞こえた〉(『人狩り熊』)

 5月20日に第一の事件が発生して以来、現場周辺で初めて駆除されたクマである。

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 このクマはメスで、体長130センチ弱、体重は60キロから70キロと推定されている。歯牙採取がなされていなかったため正確な年齢は不明だが、比較的若い個体と思われる。

複数犯か、単独犯か

 では、このクマがFさんを殺した“犯人”なのだろうか。報告書にはこうある。

〈(*クマの)胃の中には上部1/3に人と見られる肉片、残り2/3にタケノコが詰まっていた。県の委託を受けた県警が胃内容物に含まれてた人肉らしき内容物のDNA鑑定をした結果、収容したご遺体と同一であるかどうかはわからなかった〉

 またクマに応戦し、撃退したDさんが目撃した“額にナイキ・マークのような傷がある”クマとも、外見上の特徴は一致しなかったという。

 報告書は、このクマが確実に関与されたと考えられる人身事故はFさんのケースだけとしたうえで、こう結論づけている。

〈これらのことから、攻撃、食害共に複数のクマが関与している可能性は否定できない。同様に、射殺されたメスがすべての攻撃と食害に関与したという仮説も否定できない〉

 複数の“人食いグマ”が存在しているのか、それとも4人を連続で襲った“単独犯”だったのか。この時点では不明だが、いずれにしろ恐ろしい「可能性」には違いない。

 この6件目のFさんの事故以降、しばらくこの地域におけるクマの襲撃は途絶えた。