ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)といえば、「モナ・リザ」が有名ですが、それより少し前に描かれた通称「美しきフェロニエール」も見どころが満載です。

 そもそもダ・ヴィンチって何がすごいのでしょう? 一つは、当時の水準からいっても突出したリアリティを実現したところにあります。そのリアルさの秘密に迫ってみましょう。

衣装のリボンの色は黄色に見えますが、もともとは緑色だったことが分かっています。想像して頭の中で復元して見るのも面白いでしょう。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「女性の肖像」、誤って付された別称「美しきフェロニエール」
1490-1497年頃 油彩・板(クルミ) ルーヴル美術館蔵

 まず、本作は四分の三正面観という、正面からやや顔を横に振った姿勢で描かれています。それまで、イタリアの肖像画は横顔で描かれていたのですが、15世紀前半からフランドル地方で肖像画が四分の三正面観で描かれるようになり、それが15世紀後半に次第にイタリアにも広まっていったのでした。それでも、イタリアでは女性の肖像画は横顔で描く伝統が根強く残っていました。そんな中、ダ・ヴィンチは女性を四分の三で描いた最初期の画家の一人といえます。もっとも、今では当たり前の肖像画の描き方なので、その新しさを感じるのは難しいかもしれません。

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 横顔を描く場合、豪華な衣装や装飾品を細かく描き込むことが多く、また顔の輪郭が強調されるので、どうしても平面的な印象になりがちでした。それに対し、四分の三正面観の方が奥行を表しやすく、人物の立体感や現前するようなリアリティを表すのに向いていたのです。

 しかも、ダ・ヴィンチはスフマートと呼ばれる煙のように境目の見えないぼかし表現で輪郭を自然にぼかし、繊細なグラデーションを実現したことで、人物が光の中にいるように感じられる表現に到達しています。さらに、女性の衣装をよく見ると、胸元の襟にある植物文様が、奥に行くにしたがってパースがついているのが分かるでしょうか。このように細部に至るまで遠近感を意識した描写がリアルさを底上げしているのです。

 この絵の女性は体は横向きのまま、顔だけをこちらに向けています。その迫真性に、鑑賞者は額縁という窓の向こうで彼女がまさにこちらを向いた瞬間に出くわして目が合ったような気持ちになります。この凄みのあるリアルさは、同時代に同じく四分の三正面観の女性肖像画を描いていたボッティチェリやギルランダイオの作品と比べても、大変な驚きをもって迎えられたことでしょう。

 最後にちょっと注目してほしいのが画面下部の手すり状の部分。パラペットと呼ばれるもので、フランドル地方の肖像画に描かれるようになり、後にイタリアにも広まりました。鑑賞者の空間と絵画空間を繋ぐようにも見えるし、隔てているようにも見えます。人物の顔を頂点とした三角形を構成するので、構図を安定させる効果もあります。

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「ルーヴル美術館展 ルネサンス」
国立新美術館にて12月13日まで
https://www.nact.jp/exhibition_special/2026/louvre2026/

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