口コミに乗り始めたきっかけはSNSだ。それも特定のインフルエンサーによるものではなく、映画を実際に観た人々のレビューや、OTTなどの二次配信サービスがないため「映画館でしか見られない」ことも話題になった。

ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』韓国版ポスター(ARTNINE〔@art_nine9〕Xより)

“異例のヒット”の裏にあるのは…

 大きな反応を見せたのは20~30代。特に公開序盤は20代女性の観客の割合が多かったという。こうした背景には、最近、殊に若い世代を中心にメンタルヘルスへの関心が高まっていることがあるのではないかと同社は話す。

「精神疾患やカウンセリング・治療についても過去より積極的に語ろうとする雰囲気が醸成されていると感じています。 実際に映画公開後、SNS上でも統合失調症という疾患そのものだけでなくて、精神疾患を取り巻く社会的偏見、治療のタイミング、家族による介護と責任、当事者や家族を支援する社会システムなどについて、自身の体験や考えを共有する反応が多く見られます」

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配給会社「ATNINE FILM」が運営する映画館「ARTNINE」。『どうすればよかったか?』のポスターには、観客からの感想が多数貼られていた(筆者撮影)

 実際に、この映画を紹介したあるYouTubeチャンネルのコメント欄には、自身の経験や家族の精神疾患について赤裸々に吐露しているものが多かった。

「両親を思い出して胸が苦しくなった」

 たとえば、劇中で、父親が医学部に進学した姉に毎年、医師の国家試験のテキストを買っているのを見て、「受験のストレスから5年ほどうつ病で苦しみ、今は他の仕事に就いているにもかかわらず、毎年、司法試験を受けないのかと言ってくる両親を思い出して胸が苦しくなった」という人。

 自身が受験のストレスから双極性障害(躁うつ状態の悪化)を発症し、閉鎖病棟で過ごした経験があるという人は、「発症年齢や治療が早かったおかげで外来で薬を服用しながら現在は1人で働いて暮らしている」と言い、「精神疾患は初期の診断、初期の服薬が一番重要です。周りに統合失調症でも双極性障害でもうつ病でも、精神病症状(psychotic)が見られる人がいたら、すぐに病院に連れて行ってあげてください」と呼びかけている。

「社会的偏見に直面すると、さらに打ちのめされる」

 統合失調症を持つ家族がいるという人も多かった。母親が統合失調症を発症したという人は、「家に統合失調症の家族がいると、残りの家族は地獄の中で生きることになります。そんな中で統合失調症に対する社会的偏見に直面すると、さらに打ちのめされます」とやり場のない思いを打ち明けている。

 そして、知的障害と自閉症のある弟がいる人は、こう話している。「人の人生は無条件に幸せでなければならないと考えるのは、幸せになれる条件が整っている人たちが夢見る幸せですよね。運良く恵まれた暮らしをしている人も多いですが、このような人生を耐え抜かなければならない人生もあります」――。