韓国でも日本と同じような状況が「患者を自宅や無認可施設に隠して…」
映画では、姉の統合失調症と思しき症状が現れてから両親は彼女の病気を認めず、やがて玄関に南京錠をかけて家に閉じ込めてしまう。治療を受けたのは発症から25年後だった。「どうすればよかったか」と考えさせられる姿だが、韓国では1995年に「精神保健法(現・精神健康福祉法)」が制定される前までは、社会的偏見や家族が恥だと感じる傾向が強く、相当数の精神疾患患者は自宅や無認可施設などに隠されていたという。
法制定以降、精神疾患への認識や治療へのアクセスなどが大きく改善されたといわれる。だが、実際に医療機関につながっているのは軽度の疾患に集中しており、「うつ病により診療を受ける患者がこの10年で倍近くに増えた一方で、統合失調症の場合は2010年代半ば以降大きな変化はなく診療を受けられていない人が相当数いる」とパク医師は語る。
2010年代半ばというと、前述した事件が起きた頃だ。パク医師は、「明らかに病理的で患者自身に危害を及ぼしかねないケースであっても、それを病気や症状として受け入れることが難しい場合が多い」と話したが、日本でも同じような状況ではないだろうか。
幼少期から学歴社会のストレスに晒される
精神科を受診する人が増えた背景には、実際にうつ病を発症する層そのものが増加しているという実態もある。特にコロナ禍以降、20~30代のうつ病患者が大幅に増え、最近では10代の患者が目立つという。
全国的に幼少期からのうつ病患者も増えているが、ソウル市内の江南エリアの中でもとりわけ有名な塾が集中する周辺3区では、他地域よりも3倍に近い(2025年「ソウル市教育庁教育情報院」資料)。この地域には幼児から通う英語塾や、小学生を対象とした医学部塾などもあり、幼少期から学歴社会のストレスに晒されているとして、社会問題にもなった。
韓国人がよく使う「剥奪感」という言葉
韓国では、競争が見えやすく、他人と比較する傾向が強い。韓国の人と話をしていると、ちょっとした会話の中に「剥奪感」という言葉が出てくる時がある。「相対的剥奪感」の略で、これは自分が得られたはず、あるいは自分にも起こり得るはずだったことが他者に起きた場合の、羨望や嫉妬、敗北感などがない交ぜになった表現だ。
精神疾患の患者数は世界的に増加傾向にあり、日本でもうつ病患者は増えている。韓国と同じように、特に若年層の増加が顕著で、他者との比較がしやすくなったSNSの影響が、共通項として考えられるだろう。
釜山国際映画祭、コミュニティ上映も
映画『どうすればよかったか?』は10月6日から始まった釜山国際映画祭にも招待されている。韓国では年末までの上映を目標とし、さまざまな団体とともにコミュニティ上映なども進めていく予定だという(前出「ATNINE FILM」担当者談)。
ところで、韓国では統合失調症は、「調弦病」と呼ばれる。2012年に精神分裂病から改称された。これは朝鮮時代の僧侶が「経典の勉強は弦を調律することに似ている」と記した一節からとったもので、神経系の緊張度が適切に調律されていない状態を比喩的に表現するために引用されたそうだ。
