「私がずっと意識してきたのは…」

 松岡はこう語る。

「私がずっと意識してきたのは、明日が来るのが嫌な人、明日を迎えるのが難しい人に作品を届けること。例えばドラマであれば、次の週の放送まで楽しみだから頑張ろうと思ってもらえるような。私も実際に、それに救われていたんです。だからエンタメに関わる以上、しんどい、きついと思っている人がちょっとでも前を向けるような作品に携われたらと思っています。エンタメにはその力があると信じています」(『Numero』2023年3月13日)

 子どもの頃、テレビを夢中で見ていた少女が、今度は画面の反対側から、かつて自分が受け取ったものを誰かに返そうとしているのかもしれない。

2019年「日本アカデミー賞」の授賞式。主演女優賞を獲得した(左から)安藤サクラ、黒木華、篠原涼子、松岡茉優、吉永小百合 ©文藝春秋

「すごく息の長い女優さんになるだろう」

 子どもの頃から何百回も「あなたはいらない」と言われてきた女優が、いまは孤独や生きづらさを抱えた人物を演じ、その声を代弁している。「決め手がない」から、何者にでもなれる。そして何者にでもなれるからこそ、年齢を重ねれば重ねるほど、演じられる人生は増えていく。

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 松岡が若い頃から好きだという言葉がある。

「“漕ぐことはやめず、流れに身を任せる”というのが好きで。自分はずっと漕ぐことをやめないけど、自然の流れにまかせていけばタイミングが来ると思うんです」(+act. 2012年7月17日)

 NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、舞台『江戸は燃えているか』(2018年)など、いくつもの作品で松岡を起用してきた三谷幸喜は、以前から「すごく息の長い女優さんになるだろう」と感じていたという。「この人はお母さんの役もできるようになるだろうし、もしかしたらおばあさんもできるようになるんだろうなと」(前出『ほんまつ』)。

松岡茉優のインスタグラム〔@mayu_matsuoka_koushiki〕より

 漕ぐことをやめないから、どんな役でも演じるし、何歳までも演じることができる。お母さん、おばあさんを演じる松岡茉優をいつか見てみたい。

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