なぜみんな左遷させられたのか?

 先輩たちはじつに魅力的だった。とくに海外駐在経験が豊富なベテランたちは、シンガポールの華僑財閥の話からマレーシアの政治事情、香港返還前後の裏話まで話題は尽きない。

 ワインに異様に詳しい人もいれば、クラシック音楽やオペラに精通する人もいた。昼休み、世界経済や歴史の話で盛り上がる様子は、証券会社というより大学の研究室のようだった。誰もが営業成績だけでは測れない、人間としての奥行きを持った人たちだった。

 私は最初、「なぜこんな優秀な人たちがここにいるのだろう」と不思議に思った。そして気づいた。この部署に集められたのは能力のない人たちではなく、会社の都合で行き場を失った人たちにすぎないのだと。

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 幸いだったのは、福岡部長も畑尾課長も私になんの期待もしなかったことだ。

 ここでは、毎朝「今日はいくらやるんだ」と数字を詰められることも、行動予定を細かく管理されることもない。訪問先も自分で決め、アプローチ方法も自分流を通せた。営業日報さえ出しておけば何も言われない。ふつうの営業店なら考えられないほど自由だった。会社から見れば放置だったが、私にとっては自分の頭で考え動ける理想的環境ともいえた。

 首都圏営業部へ異動して数カ月がすぎたころ、妻から思いがけない言葉を告げられた。