「新教育」の導入で「子供の基礎学力が低下した」と騒がれた昭和20年代の日本。しかし、当時の根拠とされた調査を検証すると、大衆向け公立校の生徒と戦前の名門校生を比べるなど、お粗末な比較や予算獲得のための政治的決めつけが横行していた。

 実は当時から、戦前より学力は高かったというデータも存在していた。なぜ世間は客観的な検証を無視し、「学力低下」を叫び続けてきたのか? ジャーナリストの飯田一史氏の新刊『「若者の読解力低下」というウソ』(集英社インターナショナル)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目)

写真はイメージ ©アフロ

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問題含みな比較

 過去の調査が「見つかった」とされた1952年の第2調査では、戦後の横浜市の公立小学校児童の成績と比較するために、戦前(1927年)に行われた茗渓会研究部による「茗渓会調査」(田中調査)のデータが用いられた。

 だが数学教育史研究者の佐藤英二が論文「戦後初期に算数の学力は低下したのか?」(『明治大学教職課程年報』46巻、2024年)で検証しているが、これは問題含みな比較だった。

 なぜなら戦前の茗渓会調査の対象校には、誠之小学校や番町小学校といった東京のいわゆる名門校(エリート層の子弟が通う学校)が含まれていたからである。さらに、このときの試験では、当時の国定教科書に掲載されている問題がそのまま出題されていた。

 対して戦後の調査対象は、大衆教育機関である公立小学校の児童だった。現代にたとえて言うなら、お受験をクリアして入学してきた国立や私立の小学生と、市町村立の公立に通う小学生を比べるようなものだ。メンバーの基礎的な学力や親の社会経済的地位(SES)が違う。

 なお久保は『学力検査と知能検査』では「家長の最終学歴とその生徒の学力および知能検査の結果との間には、じつに顕著な関連がある」「家長が従事する仕事と、その生徒の学力及び知能検査の結果との間にも、やはりじつに顕著な関連がある」とSESに着目していた(127ページ)。しかし『算数学力』で戦前と戦後を比較するにあたっては、これらの差に言及していない。