責任を負わない二つの大国
中国は、そうしたアメリカの不在を、既存の国際秩序を塗り替える好機と捉えている。ただし、その関与の仕方は、これまでのような自由主義に基づくものではない。アメリカが国際組織への支援を減らしているからといって、その負担を善意で肩代わりしようとはしない。他国の干渉を防ぐ主権重視を声高に主張しつつ、自国の利益にかなう領域を選び、そこに資源を集中させている。中国は、国際秩序の穴を埋めるような存在にはなっていないのだ。
世界を見回すと、実は、後で紹介するように、独裁者たちのクラブのような地域機構までが跋扈している。それらが既存の国際法に代わって、非民主的な政治体制に正当性を与えるような動きまで見られる。
これまでは世界全体を覆う自由主義のプロジェクトの夢が存在してきた。問題があれば集まって話し合い、費用を分担し、ルールを作って互いにそれに従うという国際協調の習慣があった。国連や国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)といった国際組織は、その習慣が形になったものだ。それが戦後社会だったのだ。そこでは、歩みが遅かったとしても、人権の伸張やグローバルな課題に対する協力が促進されてきた。
しかし今、国際秩序を支えるべき二つの大国は自らが縛られることを拒みながら、国際組織などを新たに設け、利益を追求する構えもみせている。既存の国際組織は形こそ残っているが、機能不全にますます苦しんでいる。リーダーが不在のまま国際協調が大きく廃れるような、人類にとっての底線が迫っている。それが今回の問いである。
※約9000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年11月号に掲載されています(佐橋亮「穴の空いた世界 大国が作り直す国際秩序のかたち」)。
・中国にとっての国際秩序
・混乱と変容の時代へ
