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“防衛省の天皇”守屋武昌次官を「横柄な奴だな」とは思っていた

――2007年1月には防衛庁が防衛省に昇格。時は第1次安倍内閣でした。安倍さんは自衛隊に対してフレンドリーだったんじゃないかと思うんですが、安倍政権になっていかがでしたか。

田母神 いや、それはやっぱり、安倍さんになった時は嬉しかったですね。この人、自衛隊のために頑張ってくれるんじゃないかって。

――一方で防衛次官は守屋武昌氏。4年間にわたって次官を務める異例さもあって「防衛省の天皇」と呼ばれた人物ですが、田母神さんから見てどんな人物でしたか?

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田母神 守屋さん? まぁ、横柄な奴だなとは思っていました(笑)。年齢は向こうが4つ上。でもこっちは航空幕僚長だからね、もういつ辞めてもいいと思っていたし、関係ないって思っていました。それにしても、防衛省内部部局の人たちの守屋さんに対するビビりかたには驚いたけど。

「防衛省の天皇」守屋武昌元次官 ©文藝春秋

――何にビビっていたんでしょうか。

田母神 守屋さんがこうしたい、ああしたいという意志を強く持っていたということにビビっていたのでしょう。守屋さんの意に沿わないと出世の道が閉ざされるわけです。官僚というのは、防衛省に限らず「自分はこうしたい」って意思を持っている上司に対してビビるわけですよ。事務次官なんて特に、何も問題さえ起こらなければいいって思っている人が多いんだから、それに慣れている官僚たちは守屋さんみたいな人がトップに来ると頭抱えますわな。そういう意味では、守屋さんという人は官僚的ではない素質を持っていたある意味で立派な方だったのかもしれませんね。しかし一方では自分のやりたいようにやるえこひいき的なことも多かったようで、のちに贈収賄事件で捕まってしまいますけど。

官邸と制服組の間に背広が挟まっている

――防衛省内局=背広組と自衛隊=制服組の関係というのは、よく微妙なものだと言われますよね。田母神さんは制服組のトップを務められたわけですが、そのあたりはどう感じていましたか。

田母神 それは制服組のフラストレーションというのはすごいものだと思いますよ。だって、予算と人事を「背広」に抑えられているわけですから、これは大きい。たとえば背広は「官邸はこう言っているので」という言い方をよくするんです。ところが本当に官邸が言っているのか、結構怪しい。とはいえ、官邸と直接人事や予算の折衝をするのは背広しかいないので、何とでも僕ら制服に言えるわけですよ。

 

――官邸と制服組の間に背広が挟まっていると。

田母神 そうそう。そして結局、何かが起きると自衛隊の規律がどうのって話にすり替わりやすい。たとえそれが背広の人間が起こした問題であっても、自衛隊バッシングになりかねないような危うさを抱えている。それが防衛省と自衛隊の関係です。今もそんなに変わっていないんじゃないですか、こういう関係性は。非常に気を遣う役所でしたよね。だから僕も、気を遣いすぎてこんなに背が小さくなっちゃった(笑)。

――自虐ネタですね(笑)。

田母神 持ちネタです。

人間、そりゃ失言しますよ

――田母神さんは航空幕僚長を2007年3月から2008年11月まで務めるわけですが、その間に防衛大臣が6人も交代していますよね。久間章生、小池百合子、高村正彦、石破茂、林芳正、浜田靖一の各氏。久間さんは「長崎原爆は仕方なかった」発言で辞任しました。

田母神 人間、そりゃ失言しますよ。犯したミスをどう補填するかを問う方向っていうのが、日本では根付きませんね。今でも、あの発言は辞任するほどの大失言なのかと思いますが、あの時は総理がもっと強くかばうべきだったんじゃないですか。

「田母神論文事件」当時、防衛大臣を勤めていた浜田靖一氏 ©時事通信社

――当時は安倍首相ですけども。

田母神 守りきれなかったんですかね。結局、総理然り、指揮官というものは部下が何か問題を起こしても、それが悪意を持ったものや、犯罪に該当するものでない限りは守ってやらなければなりませんよ。そうでなければ、部下というものは安心して仕事ができない。ひいては組織力が最大化しない。杉田水脈発言だってそうだと思いますよ。

――「LGBTには生産性がない」発言をした杉田水脈議員を、安倍首相はもっと守るべきだったと?

田母神 少なくとも、そういう議論があってもいいんじゃないかと、杉田議員を守るべきだったんじゃないかと思いましたよ。

――あの発言は、人間を生産性で優劣をつけるようなナチスの「優生思想」につながる危険性があると批判されました。

田母神 それに対して、人類が永続するためにLGBTは正しいのか? 間違っていないか? と意見を言うことは批判されるべきものじゃないと思うし、私はそれさえ封印されるのはおかしいと思ってます。この民主主義社会で、言論が不自由な方向に押さえつけられるのは間違っていますよ。だからLGBTが正しいという意見はあっていいでしょう。言いたければ言ったらいい。それはわかったと。でも俺は間違ってると思う。そして、そういう意見があることを首相はやはり、守ってやるべきだったと思う。