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ネットの時代だからこその「美術館ブーム」

――今は、絵やアートとどのように関わっていらっしゃるのでしょう。

田原 気に入った絵を買ったりするね。ピカソ、マティス、ルオーなんかいくつか持っている。ピカソはどんどん線を崩していって、どこまで自由に描けるか。ルオーは宗教的なバックがあって、いかにあったかい絵を描くか。仕事場にも、ヴラマンクの厳しい絵を飾って励みにしてる。

――美術館ブームと言われていますが、田原さんも美術館には行かれますか?

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田原 行きますよ。ネットの時代だからこそ、実物、本物が見たい。今、演奏会なんかも流行ってるでしょ。やっぱりリアルに見たい、会いたい、ってみんな思っている。僕も取材はほとんどフェイス・トゥ・フェイスですよ。

ムンクが生きた時代は、現代とシンクロしている

――今日は東京都美術館で開催中の「ムンク展―共鳴する魂の叫び」を見られたそうですね。

田原 ムンクの作品には、見た瞬間引き込まれてしまうような、すさまじい衝撃、スゴさを感じたね。これはまったく他の画家と違う。特に生で見た«叫び»は、恐怖の叫びなのか、闘いなのか、あるいは狂気なのか。グッと掴まれる感じがした。

 

 ムンクは人物画でも、顔の造形をほとんど描いていない。描く気もないように見える。つまり、この人物が誰かってことは重要じゃないってことだよね。この人物の外面じゃなくて内面、それもネガティブな悩み、苦しみ、孤独みたいなものがよくあらわれている。

――そんなムンクの作品に共感する人も多いようです。

田原 今、ムンクがウケるのは、世界全体がいらだっているからじゃないかな。アメリカでもブラジルでも独裁的なリーダーが当選し、民主的なドイツのメルケル首相は非常に苦戦している。

 ムンクも、第一次世界大戦と第二次世界大戦が起こり、非常に荒れた時代を生きた人。ムンクが生きた時代と現代は、ある意味シンクロしている。世の中が非常に不安定で、将来に対して期待ができない。だから、この「叫び」が今のお客さんに非常に合う。

なぜムンクは60年以上も絵を描き続けたのか

――田原さんご自身も、共感するところはありますか。

田原 ムンクは60年以上絵を描き続けたんだけど、彼にとって絵は何だったんだろう。リトグラフに版画に、いろいろなアートの手法も実験しているし、やはり好奇心が原動力だったんじゃないか。僕も、この歳まで仕事を続けてきたのはやっぱり「この人はなにをしているのだろう」「この人はなにを考えているのだろう」といった好奇心が原動力だよね。


写真=深野未季