雲田はるこのマンガ『昭和元禄落語心中』がドラマ化された。主人公の八代目有楽亭八雲(やくも)を岡田将生が演じると知り、一抹の不安を覚える。

 まだ十代の前座時代から、昭和の大名人となる晩年までを、岡田将生ひとりで演じるのは至難の業だ。マンガもその後のアニメ版も、老いた八雲の表情がゾクッとするくらい色気たっぷりだった。生身の若い役者が、髪を白く染めただけじゃ追っつかない。

岡田将生 ©AFLO

 冒頭は刑務所を出たばかりの与太郎(竜星涼)が、八雲に弟子入りするシーンから始まる。慰問落語会にきた八雲の「死神」を聴き噺家になると決めた。刑期満了、ムショを出ると寄席に直行して弟子入り志願する陽気な若者だ。

ADVERTISEMENT

 弟子をとらない孤高の名人が、なぜか機嫌よく与太郎を拾ってやる。師匠の家に気の強い小夏(成海璃子)という娘がいる。八雲の親友でライバルだった天才肌の夭折した噺家、二代目有楽亭助六(山崎育三郎)の一人娘だ。

 偏屈な大名人を精一杯に演じる岡田君だがやはり若い。特に声の若さは隠せない。アニメ版で八雲の役をやった石田彰の声がハンパなく艶と渋さがあったからなあ。

 八雲を嫌う小夏は「トウチャンの落語が一番」だと与太郎に吹き込む。興味を持った与太郎は助六の音源を探して、一気に虜(とりこ)になる。そんな小夏と与太郎を怒鳴りつけた八雲は、「あの人とアタシの噺を聞かしてやろうか。長(なげ)ぇ夜になりそうだ。覚悟しな」といって語り始める。

 同じ日に先代に弟子入りした八雲と助六。前座名は八雲が菊比古で助六は初太郎だ。愛嬌があって破天荒な助六。正反対に稽古のし過ぎで辛気臭い菊比古。寄席が笑いで沸く人気者の助六が、菊は羨ましくて仕方ない。

 そんな菊に遊びを覚えさせようと先代は、芸者のみよ吉(大政絢)に会わせる。男に騙され、遊ばれつづけてきたみよ吉は、落語一筋の菊比古の性格と顔に惚れる。大政絢が人生の辛酸を舐め尽くした、奔放だが一途な女を好演。

 みよ吉と出会い、菊比古の芸が“化けた”。今度は助六が菊比古に嫉妬する番だ。友情、いや愛情と呼んで差しつかえない結びつきの二人が、魅力的な女さえも脇に置き、落語と男同士の結びつきに殉じていく物語は、観る者を魅了する。山崎育三郎が、愛嬌と寂しさをあわせもつファンキーな噺家を演じて儲け役だ。さあ、寄席やホールにすぐ行かなきゃ。そんな気分になる。

『昭和元禄落語心中』
NHK総合 金 22:00~22:45
https://www.nhk.or.jp/drama10/rakugo/

昭和元禄落語心中(1) (KCx)

雲田 はるこ(著)

講談社
2011年7月7日 発売

購入する