「落ち着いているので14歳って感じじゃない」
そして感想戦をした印象と、同じく中学生で棋士になった渡辺明三冠と羽生善治九段の、当時の印象との違いをこう述べている。
「まあ藤井四段も『ここで不利になったと思ったんですが……』とか、いつもの感想戦という感じなんですが、彼、落ち着いているので14歳って感じじゃないんですよ。私から見ても、何年もやってる人みたいなんです。同じく中学生プロデビューした渡辺(明)竜王が15~6歳の時、私は対局したことがあるんですが、藤井さんのほうがはるかに落ち着いている印象です」
「うーん、羽生三冠の中学時代がデコボコ道を走る車だとしたら、藤井さんは高速道路を静かに走っている車という感じがします」
北浜はデビュー直後に対戦した藤井を「高速道路を静かに走っている車」と評したが、同じ乗り物に例えたのが、高野秀行六段である。高野は、藤井のデビューからの連勝記録が18に伸びた2017年の6月、当時の彼を「性能の良いマシンが参戦すると聞き、フェラーリやベンツを想像していたら、ジェット機が来たという感じ」と評して話題になった。
なお高野は、このときから2年8カ月後に、藤井と順位戦C級1組で対戦し、対局後のインタビューでジェット機と評したことについて聞かれたときの返答を、こう言えば良かったと述べている。
「今から考えれば『失礼なことを言ったかもしれないですが、あながち間違った表現ではなかったかなと思います。今日は私もちょっとだけジェット機に乗せてもらえ楽しく旅ができました』くらいのことを言いたかったですね(笑)」
29連勝記録「天才という言葉を使わないのは難しい」
藤井の連勝記録は2017年7月、佐々木勇気五段(現七段)に敗れ29で止まったが、その世間に与えたインパクトは絶大だった。町の将棋教室にも、子供たちの入門が相次ぎ、世には将棋ブームが沸き起こる。もちろん与えた衝撃は、棋士にとっても大きなものだった。渡辺明三冠は、藤井の連勝が止まった直後、彼についてこのように語っている。
「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しいと思います。いちばん若くして棋士になって、勝ちっぷりが普通じゃない。大棋士になる条件は当然満たしていますよね。買うなら『数十年に1人の天才』というオッズが人気になるのは当然です」
「タイトルを目指そうという新人がデビュー直後に勝率7、8割以上勝つのは当たり前なんです。藤井君が8割程度なら棋士間で評価は得られるものではありませんでした。9割を超えると『ちょっと違うな』と思うようになりますが、デビューから負けずに29連勝したわけですからね。驚きました。プロ野球に例えるなら並の新人王の成績では当然なくて、高卒で3割30本を超えるレベルです。2割8分20本程度じゃない」