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オリックスファンの1年は子育てに似ている。勝手に夢を抱き、勝手に裏切られる日々

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/18
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 そしてそれはオリックスファンも同じだ。我々は毎年、春にはチームが優勝すると信じているし、実際、この頃にはチームは「無限の可能性」に満ちている様に見えている。新外国人選手は打率3割を超え、40本以上のホームランを打つに違いないと信じているし、ブルペンの中継ぎ投手は十分数が足りていると思っている。内野手は余るほどいるし、若手も見違えるように成長している。今年こそ行ける。だからこそファンは毎年希望に満ちて開幕を迎え、カメラや応援グッズ、そしてポンタを持って応援にかけつける。スタンドが最も活気に満ちている瞬間だ。

 しかし、夏に入る頃、我々は毎年現実に直面する事になる。そうオリックスはオリックスである以上オリックスであって、突然大きく変わったりする事は、ない。長年Bクラスに低迷するチームが突如として強くなることは、大変遺憾ながら滅多になく、気が付くといつものように下位に定着している。そして我々は自らの期待が裏切られたことにいら立ち、スタンドでは ― 新型コロナ禍の今年は静かな ― 怒号が飛び交う事になる。しかし、それはチームの責任では、実はない。我々は自信が勝手にチームに対して抱いた夢に、勝手に裏切られ、苛立っているだけなのだ。

我々がファンであることの意味

 そして、地球は今年もいつものように公転し、秋を迎える事になる。地球、こういう時は、ちょっとは空気読めよ。現実は更に厳しくなり、25勝47敗。5位日ハムからすら9ゲーム離され、勝率は吉田正尚の打率より低い.347に低迷している。春に抱いた期待が裏切られた事は明らかであり、我が家のテレビは沈黙を続け、家族の会話はめっきり少なくなる。そうかうちの家族オリックスでもってたんや。でも、思う。こんなに成績が悪化すれば、心が折れるのは我々ファン以上に選手の側だろう。そんな時、我々ファンがこのチームを応援しなかったら、一体誰が彼らを応援するというのだろうか。

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 親はどんな時でも子供を応援する。それは彼らが類まれな才能や容姿を持つからではなく、我々が彼らの親だからだ。だからこそ、親は子供が壁にぶつかり、苦悩している時こそ、子供を応援しなければならないし、応援するものだ。何故なら、社会へと一歩を踏み出し、悩み苦しみ、孤立している彼らを、どんな時でも応援することができるのは我々だけだからだ。そしてそれは親であるが故の特権なのだ。

 勿論、大きくなった子供に対して、親が出来る事はほとんどない。精々、卒業するまで学費を稼ぎ、仕送りをするくらいが関の山だ。でもそれで構わない。我々は彼らからあれほど「幸せな瞬間」をもらったし、どれだけ回数が少なくなっても、これからもきっともらう事ができると信じている。そうそれはちょうど、我々がスタンドで「幸せな瞬間」を過ごせるのと同じなのだ。

 だからこそ、オリックスファンは秋になると、ちょっとだけ「優しい目」になってスタンドへかけつける。そう彼らを応援できるのは我々だけであり、それこそが我々の特権なのだ。だからこそ、今年も彼らと共にもう少し「幸せな瞬間」を過ごそうではないか。シーズンはまだ続く。それこそが、そしてそれだけがファンの出来る事であり、我々がファンであることの意味、なのだから。テレビのスイッチは切っておいてもいい。さあ、今日も球場に出かける事にしようか。

スタンドから応援するバファローズポンタ

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