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「神様が味方してくれた」ドラゴンズ待望の正捕手、木下拓哉はもう一人のMVPだ

文春野球コラム ペナントレース2020

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 ペナントレースも終盤ですが、ついにAクラス入りしたドラゴンズ。まだシーズンは終わっていませんが、ドラゴンズの今年のMVPは誰だろうと考えると、まずは大野雄大さんの名前が挙がると思います。とにかくすごかった。

 MVPをもう一人挙げるとしたら、僕は木下拓哉選手の名前を挙げたいと思います!

筆者・辻本達規(BOYS AND MEN)

 正捕手はドラゴンズの長年の課題でした。今シーズンも当初は併用が続きましたが、9月6日からは2試合を除いたすべての試合で木下拓哉選手がスタメンマスクを被っています。

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 しかも、消去法の起用ではなく、即戦力ルーキーの郡司裕也選手、破壊力を誇るアリエル・マルティネス選手との高いレベルでの争いを勝ち抜いて正捕手の座を掴みました。1年間フル出場したわけではありませんが、扇の要がしっかり決まりそうなのが本当に嬉しいです。

 やっぱりキャッチャーはチームの土台。前日、負けた反省を活かすことができるのもキャッチャー。どれだけデータが揃っていても、現場で感じ取ったものを蓄積して、次の試合に活かすことはキャッチャーというポジションにしかできないことです。でも、日替わり捕手ではそれが難しい。

 ドラゴンズは木下拓哉選手が捕手に固定されてから、チームの成績もどんどん上向きになって、ついにAクラス入りを果たしました。僕にとってはMVP級の活躍なんです。

木下拓哉 ©時事通信社

盗塁阻止率は12球団ナンバー1!

 木下拓哉選手は「打てる」キャッチャーです。

 10月6日のヤクルト戦ではチャンスを広げるフェン直の2ベースを打っていますし、11日の巨人戦でもとどめを刺すタイムリー2ベースを放ちました。3日のDeNA戦でハマスタのレフトスタンドに叩き込んだ特大3ランも忘れられません。長打が打てるのもいいですし、チャンスに強いのもすごく頼もしいです。

 もともとキャッチングやフレーミング技術に定評がありました。守備は日々の積み重ねであって、なかなか急には上達しないと思います。その点、木下拓哉選手は、守備はできていて、打撃が追いついてきた形なので、安心して見ていられます。やっぱり捕手は守備が第一ですからね。

 でも、打てるキャッチャーがいるチームは強い。木下拓哉選手が打撃でも活躍することによって、8番、9番が簡単にアウトにならない打線が組めるようになりました。また、あれだけ打てたら、相手から見ても怖いバッターになってきているでしょう。

 もう一つ、何と言っても大きいのは盗塁阻止率の高さです。

 木下拓哉選手の盗塁阻止率は12球団でダントツ1位の.475! 10月10日の巨人戦では若林選手とウィーラー選手の盗塁を刺しました。リードや配球は不確定要素が多くて評価が難しいのですが、スローイングの良さと肩の強さは誰でもひと目でわかります。

 接戦の試合の終盤で、盗塁が決まるかどうかは非常に大きな意味を持ちます。足の速いランナーが塁に出れば、相手のバッテリーにはプレッシャーがかかりますし、バッターも有利になる。そこで盗塁が決まれば味方のベンチは盛り上がるでしょうし、決められた側はダメージが大きい。首位を独走する巨人には走塁のスペシャリスト・増田大輝選手がいます。

 でも、木下拓哉選手はそんな増田選手を刺しましたからね!

 9月26日の巨人戦、8回に自ら勝ち越しホームランを打ちましたが、9回裏に増田選手が代走で登場しました。点差は1点。盗塁を決められたらワンヒットで同点です。ここで増田選手を刺せたのは本当に大きかった! 試合を決めたバッテリーの1球です。巨人に対抗できるのはドラゴンズだけだと強く思わせてくれた試合でした。

 ランナーが1塁に出たとき、肩とスローイングに不安があるキャッチャーでは、ピッチャーも落ち着いて投げられないのではないでしょうか。木下拓哉選手は投手に安心感を与えて、本来の力を引き出すことができるキャッチャーだと思います。

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