「一流の先」に到達したかのよう 前田智徳との共通点
そんな感じの誠也を見ていると、ひとりの「漢」を思い出す。誠也の背番号の前任者、前田智徳だ。現役時代に侍とも称された前田は、ホームランを打っても眉ひとつ動かさず、ダイヤモンドを一周するという「儀式」さえ早く終わらせてしまいたい。面倒くさい。そんな表情で走り、ベンチに戻っても選手たちと軽いタッチのみ。そしてドカッと背中から座り、バットを斜めにして片目を閉じ、ミートポイントを確認。あるいは、左手でバットの芯の少し下あたりを持ち、耳を寄せながら右手でポンポン、ポンポンと芯を叩いてバットの響きを確認。性格という面では正反対とも言えるふたりだが、バッターとして「一流の先」に到達したかのようなその存在感は、とてもよく似ていると思う。
共通点は他にもある。前田はことあるごとに「3年間は死ぬ気でやる」「結果が出るまで3年はかかる」というようなことを言っていた。なにをするにしても、まず基準が3年。結果はそこからだと。そして、誠也。彼は過去のインタビューで「僕は3年以内に(1軍に)出られないとクビになると思っていた」と語った。偶然と言えばそれまでかもしれないが、入団時と、その後。奇しくもふたりの同じ背番号を背負った者が言う「3年」という年数には、共に結果を出した者としての基準、一流ならではの根拠があるような気がしてならない。この3年という数字は責任感でもあり、ふたりにとっての危機感でもあるのだろう。
私は大の前田智徳ファンであり、彼以上に好きになる選手は二度と出てこないと思っている。心の中で「カープの背番号1」と言えば、いまでも前田智徳と答える。それは古くからのカープファンの方も同じだろう。しかし、その前田との共通点がある誠也、いや鈴木誠也というバッターは、まぎれもなくその境地に近づいている。正直、これほどワクワクすることはない。たとえば、あと10年。長い歳月が流れた時、果たして「カープの背番号1」は誰と言われるのか。誠也はカープの歴史の中でも絶対的存在とされる前田智徳をも超えてしまうのか。その男、有望につき。これまでも、そしてこれからも、私たちは鈴木誠也から目が離せない。
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