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2人の共通点は? “エース”山本由伸と“神童”那須川天心、対談実現の舞台裏

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/12

 今から3年前の2018年10月。オリックスの舞洲にある練習施設で、今シーズンはチームのエースとして、投手タイトル4冠の活躍で、チームをリーグ優勝に導いた他、野球日本代表、侍ジャパンのエースとして東京オリンピックに出場し、金メダルを獲得した山本由伸(以降、由伸)と、デビューから45連勝中で、あと2試合で引退し、プロボクサーへの転向を発表しているキックボクサーの那須川天心(以降、天心)が、2人だけで対談をしたのだ。これはCSチャンネル、スカイAが当時放送していた『RISE中継』のコーナー『TENSHIN with』のゲストとして由伸が出演したもの。『RISE』は天心が『RIZIN』とともに主戦場にしているキックボクシング団体で、『TENSHIN with』には他にサッカー元日本代表、大久保嘉人らが出演している。

山本由伸と那須川天心 ©どら増田

「“神童”と言われている天心選手と交流できたら嬉しい」

 何故、この2人が対談をすることになったのか。対談から1年前のこと。当時ルーキーだった由伸がオリックスとプロレスと格闘技を取材している私に「どらさん、那須川天心選手は知ってるんですか?」と聞いてきたのが発端となっている。天心のコスチュームを私の知人が作っていることもあり、天心の取材は現在に至るまで積極的にやって来た。「よく取材するよ」と答えると、「今、テレビによく出ているキックボクサーの那須川天心選手。最近同級生だと知ったんですけど、誕生日も僕が1日早いだけで近いんですよ。試合も観ていますけど凄く強いしカッコいい。“神童”と言われている天心選手と交流できたら嬉しい。世界と闘っている人たちの話を聞いてみたいですね」と興味津々だった。

 大阪を拠点にする由伸と、千葉の松戸を拠点とする天心を引き合わせるには、ZOZOマリンスタジアムに天心を連れて行くしかないのだが、当時の由伸はまだ無名のルーキー。天心はスター街道を歩んでいたため、何かキッカケを作る必要があった。そこで私は『那須川天心にも興味津々!?オリックスの“神童”山本由伸が見据える未来』というタイトルでコラムを書いている。私は誕生日が1日違いの同学年というところに、2人の縁を感じていた。このコラムを天心も読んでくれて、その年末の『RIZIN』で、私は「違うジャンルの同年代の選手から名前を出されることはどう思いますか?」という質問をぶつけたところ天心は「うれしいですね。自分らの世代で盛り上げていきたい」と笑顔で答えている。

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 2年目の由伸は、アルバースとの開幕ローテーション争いを繰り広げたが、首脳陣はアルバースを選択。シーズン序盤、一軍に昇格すると、当時の福良淳一監督はセットアッパーとして起用。これが見事にハマる。福良監督は前年の秋季キャンプでも「後ろで使いたくなる」と話しており、増井浩俊を休ませるため、クローザーで起用したこともあった。この年はオールスターにも初選出され、獲れなかったものの、新人王の資格があったことから知名度をかなり上げていた。シーズンが終盤に差し掛かった頃、スカイAの担当者から「天心選手と山本選手の対談をしたいので、手伝って欲しい」というお話をいただいた。話を聞くと、由伸は「練習の日程次第」とのことで、「まだ決まってないんです」と担当者は頭を抱えていた。

 2人が会うなら今しかないと直感した私は、「会えるなら会った方がいいよ」と本人に話した。由伸は「でもこれは、どらさんのネタじゃないですか」と気遣ってくれたが、「今の自分には大きなところで、2人を会わせることが出来ない。スカイAにオリックスの選手が出るのは阪神との交流戦ぐらいだし、このチャンスを逃す手はない」と背中を押した。ライターの立場からすれば、この企画は双方を取材している私にしか出来ないという自負はあった。ただテレビという媒体を私は持っていないし、雑誌や書籍でも当時はなかなか難しい企画であるのは明白。キックボクシングで日本一強い天心と会うことによる由伸のメリットを優先させた方がいいと考えた。

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