十亀が見せてくれた「男気」
今季限りで去るという決断を下した十亀に対し、印象的だったのが渡辺久信GMが使った「男気」という言葉だ。入団時には監督を務め、2019年オフにフリーエージェント権を取得した際にはGMとして交渉にあたった。
拙著『プロ野球 FA宣言の闇』の冒頭に書いたように、当時、十亀を欲しがる球団が裏で動きを見せようとした。その先に何があったかはわからないが、十亀はライオンズ残留を決めた。渡辺GMにとって初めての直接交渉で、一連のやり取りを振り返って「男気」と表した。
十亀の男気について、個人的に目の当たりにした経験がある。2019年5月26日の日本ハム戦の試合前練習後、この年に彼がテーマとしていた「無駄な力を入れないで投げる」ことや、“天敵”松田宣浩になぜよく打たれるのかなどを話しているうちに、投球メカニクスに関する取り組みからキャッチボールに話題が移った。そのうち十亀は語気を強めていき、「特にファームではキャッチボールをないがしろにして適当にやるピッチャーが多い」と不満を露わにしたのだ。
当時の西武は“若手投手が育たない問題”を抱えていて、どんな理由があるのか、現場の選手が明かした胸の内は貴重な証言だった。
ともすればチーム批判とも受け取られかねない内容だが、「書かないでほしい」という断りがない限り、取材者として直接確認したことは忖度しないようにしている。そうして文春野球で書いたのが、「若手投手が育たない西武 榎田大樹の“キャッチボール”はチームを変えるか」だった。
「記事、読みましたよ。若手に届いてくれるといいんですけどね」
数日後に試合前練習から引き上げる際、十亀が笑顔で語りかけてくれたことをよく覚えている。
先輩が、後輩のためにできること
じつはこのときに十亀と行った会話が、筆者が西武投手陣の問題を掘り下げる契機となっている。
前年オフ、村瀬秀信コミッショナーと竹田直弘編集長から都内のホテルに呼び出され、「文春野球に足りないのはジャーナリスト」と言われて参戦を決めたが、今ひとつ自分の立ち位置を決めかねていた。そんな折、偶然にも方向性を示してくれたのが十亀だった。
「本当に思うのが、内海(哲也)さん、榎田(大樹)さんのキャッチボールを見てほしいんですよ、ファームの子には」
当時から3年が経ち、今の西武では若手投手たちが台頭してきている。他球団からやってきた先輩2人だけでなく、生え抜きの十亀も若手の良き見本になっただろう。
今後については未定とし、まずはゆっくり家族との時間を楽しみたいと会見で話した。ツイッターで西武ファンの声にもあったように、言葉と男気がある十亀だけに、“裏方”に回ってもチームの強化に貢献できるのではないだろうか。
ユニフォームを脱いだ後も、“元野球選手”の人生はまだまだ続く。チームや球界を発展させるキャリアはたくさんあるだろう。
ひとまず、お疲れ様でした。また、どこかの球場で会いましょう。
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