むらむら読書、今回はそのままダイレクトに性欲がむらむらと湧いた小説、村田沙耶香先生の「トリプル」(『殺人出産』所収)です。カップルではなく3人で付き合う「トリプル」という恋人の在り方が10代の間で多数派を占める世界観、読んで結構すぐに「あれ、そもそも何故現実の世界はカップルが当たり前なんだっけ」と常識がグラつきはじめました。「いや、恋人が2人って誰が決めたっけ? 3人とも同じくらい好きって成立しないっけ? っていうか、2って破綻しやすいけど3だったらもっと安定しない?」って頭が混乱するわけです。この常識がグラつく瞬間は生きててレアものの感情なので素直に嬉しい。

©犬山紙子

  そして、主人公は藍色のシャツを着た男の子とオレンジ色のTシャツを着た男の子2人組を好ましく思い声をかけてトリプルになるわけですが、その贅沢なことよ。カップルとなると恋人になって手に入るのは自分と相手の関係性のみですが(もちろんそれはそれで最高)、トリプルだと好ましく思う2人に流れる関係性まで愛でることができる。

 この、関係性を愛でるという気持ちを持つ人って結構いると私は踏んでいます。小説や漫画を読んでる時だって登場人物の関係性を愛でていることは多々ありますし、現実でだって「あそこの夫婦は推せるなあ」なんて愛でることもありますし。そこに自分が入り込むと言うのは、大好きな作品の中に自分も混ぜてもらったような、夢と現実の狭間にいるような、そんな恍惚感がある。もうこの時点ですっごくむらむらする。

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 さらには、男女の比率が自由なのもむらむらポイントです。男男女でもいいし、女女女でもいい。トリプルを何度か経験するうちに多種多様な喜びを感じることができるわけです、ああ夢しか広がらない。ちなみにトリプルのセックスはカップルのセックスとは全く違うもので、それはネタバレしないほうが良いと思うので詳しくは書きません。

 と、ここまでこのトリプルの概念を褒めちぎっていますが、最終的に私の心に残ったのは「カップル」のセックスのいやらしさでした。

 全く違うセックスの中に、現在普通とされるセックスが放り込まれるとその普通は一瞬で異常性に満ちる。これまで散々性描写を読んできたつもりだけど、初めて性描写を読んだ時のショックを再度体験することができた。こんな裏技があるとは。新鮮な気持ちで性描写を読めるだなんて、みんな望んでるんじゃないでしょうか。

 新年最初の素晴らしいむらむらがそこにはあったのでした。