近著に『極夜行』があるノンフィクション作家で探検家の角幡唯介さん(42)と、ヤフー会長でZコーポレーション社長の宮坂学さん(51)。一度は「自分がやりたいと思っていたこと」を成し遂げた二人にこそ聞きたい「40代、50代をどう生きるか」「どうやってモチベーションを維持し続けるか」「新天地で活躍するにはどうしたらいいか」。答えのない問いに、二人はどう言葉を返すのか。
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人生100年なら、50歳は「まだ倍もあるのかよ」
角幡 宮坂さんは、30歳や40歳になった頃に年齢を意識しませんでしたか? 僕は割と、節目の年齢のことを考えてしまうんですが。
宮坂 私の場合、30歳や40歳にあまり節目感はなかったかもしれない。ヤフー社長になったのは44歳で、キリは悪いですが、その10年前の34歳の時に、一つの節目を感じました。自分の祖父が戦死した年齢なんですよね。「この年齢で亡くなるというのは、嫌だっただろうな」と思うと、自分は何だかんだでやりたいことができている環境にいる。これは世界80億人中の数パーセントに限られている話だと思うので、自分をプッシュしていかないといけないな、と思っていましたね。50歳になった時は、人生100年と考えるなら、折り返し地点だ、ということを強く意識しました。
私の前半の50年は、一貫してコンピューターに関わる仕事をやってきているんですよ。97年にヤフーへ入社する前もDTPの仕事をしていたので。だから、飽きるということもありましたし、もう一回「初心者」に戻りたいっていう感覚があったんですよ。素人に戻ってみたい願望ですね。
角幡 新しいことを始めるということですか。
宮坂 そうです。自分のできることと、自分の限界もやっぱり分かってくるんです、だんだんと。私は、孫さんみたいになれないし、スティーブ・ジョブズにもなれないし、三木谷さんにもなれないって。まあ、そこそこはやれるかもしれないけど、自分の限界も分かっているし。その中で、続けていくという選択肢もありますが、でもやっぱりもう一回素人に戻って、試行錯誤するプロセスも面白いなと思ってね。
やっぱり、飽きます?
――現在角幡さんは42歳、宮坂さんは51歳で、自分のやりたいと思っていたことを、一度は成し遂げられたお二人ですよね。一般的に、その先の人生をどうやって歩むのか考え直すタイミングだと思います。そのあたりは、いかがですか。
宮坂 そうですね……。50歳というのは一つの区切りとして分かりやすいじゃないですか。4~5年前から「人生100年時代」と急に言われ始ましたよね。私は、それまで70過ぎで死ぬかなと思っていたのに「えっ、そんなに延びるの?」と(笑)。
そう考えた時に、私はちょっと持て余している感じがあったんです。私はマラソンをやるんですが、ある友人から「ちょうど今、ハーフの折り返し地点じゃない?」と言われて。ハーフって一番きついじゃないですか。「まだ倍もあるのかよ」って(笑)。でも考えてみると、前半がマラソンで、後半は種目を変えて例えば卓球でもいいのかな、と気付いたんですよ。もう、前半戦には飽きたので。
角幡 やっぱり、飽きます?
宮坂 飽きますね。うーん、飽きるというか行き詰まってくるというか。ビジネスの世界で、意図的に同じことをあと25年続けられるかどうか、自信がなくなってきたんですよ。私自身が20年前にインターネットと触れた時のような瑞々しさで、ずっとやっていけるのかなと思うと、ちょっと自信がない。