「藤井七段に足りないのは経験だけです」
―― 同じ14歳でデビューした天才少年の将来性をどのように見ているのでしょうか。
「既に、トップ棋士のひとりであることは疑いようがありません。勝つ時はもちろん、負けた時も高い水準の将棋を指しています。足りないのは経験だけです。まだタイトル戦まで出られていませんが、今は20~30人くらいの棋士がトップにいる時代。勝ち上がっていくのは並大抵のことではありません。挑戦者決定戦、タイトル戦に出た時、どのような戦いをするかが楽しみです」
―― 同じ関西所属ですが、今のところ対戦がありません。
「現時点で相当に厳しい勝負になるとは思っています。完璧に指したと思える将棋でないと勝つことは難しい。一手でもミスをすると勝てない、という将棋を要求されるプレッシャーはありますよね」
「羽生さんと盤を挟んでいる時間がずっと続いていてほしい」
―― 藤井七段という新しい英雄が登場し、新しい元号になる。谷川九段は王者として平成という時代を迎え、継承者として羽生善治九段が30年間で99期のタイトルを積み上げた。
「同じ時代を生きてタイトル争いをしてきたので、(多くのタイトルを得ることを許してきた)当事者として複雑な思いはあります。平成は間もなく終わりますけど、羽生さんの初タイトルが平成元年。平成の30年間で210~220くらいのタイトル戦が行われて、99期を取っているわけですから、同じ時代を生きてきた者としては厳しい現実を突きつけられている面もあります」
―― あらためて、谷川九段にとって羽生九段とはどのような存在なのでしょうか。
「最もすごいと思うのは、相手に力を出させずに勝つのではなくて、相手にも高い内容の将棋を指させて、なおかつ勝つところでしょう。大山先生(大山康晴十五世名人、名人18期、タイトル通算80期、1992年にA級在位のまま死去)は後輩相手に苦手意識を植え付けるようなところがあって、強い人でも、なぜか大山先生とのタイトル戦になるとどうしてこんな不出来な将棋になって負けてしまうのか、ということがよくあったんです。羽生さんは常に、名局と言われるような将棋を対戦相手と作り上げながら勝ってきた」
―― 3月には3年ぶり、166回目の谷川―羽生戦があった(王位戦挑戦者決定リーグ・羽生の勝利)。対羽生戦とは、どのような時間なのでしょう。
「一応こちらが先輩なので気を使ってくれますので、余計なことを考えずに盤上に集中できます。対局中は、盤を挟んでいる時間がずっと続いていてほしい、という気持ちになるような存在です。常に、羽生さんとは一局でも多く指したいと思っています」